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盗賊の忘れ物

 盗賊との戦闘の後の事を少し振り返ってみよう。


 まずは負傷状況から。


 一番深手だったアンガーは、利き腕の左手が今は使えない。たぶん骨折(こっせつ)している。右手もヒビのひとつやふたつは入っているだろう。刀傷も深いものが肩と太腿にひとつずつ。添木をして、肩から吊り、傷口はロレンが縫った。


 アンガーはじーさんの作った、小ぶりのメリケンサック風の鉤爪で、盗賊と渡り合っていたが、パラシュに騎乗して、リーチの長い剣を使う相手とは相性が悪過ぎた。


 腕をだらりと降ろして、蹴り技を繰り出すその様子は、満身創痍のカポエイラ(ブラジルの足技を多用する舞踏格闘技)の戦士のようだった。血塗れの壮絶な舞踏は、そんな場合じゃないとわかりつつも、目を奪われるほどだった。


 ロレンは小さな切り傷は多かったが、どれも浅く、縫う必要もなかった。獣の人たちは自然治癒力がとても高いので、良く洗い清潔なアロエを塗っておけば二、三日で治るだろう。


 ハザンも血まみれだった割に、深い傷は少なかった。血の気が多いだけだろう。少し抜けて丁度いいかも知れない。剣をちょくで受け止めたらしい左腕の傷が一番深く、骨まで達していた。この傷だけは注意が必要だ。


「十文字槍さえ持ってれば、俺ひとりだって負けやしなかったのによ」


 とぶつぶつ言いながら、ロレンに縫われていた。


 痛くねぇの? 俺、目から火花出たんだけど。



 クルミちゃんは、転んだ時に膝小僧を少し擦りむいただけだ。心の傷を心配したが、


「おじさま、私の人生で最大ピンチでした! これはもう、あとの人生は余裕って事ですよね?」


 と、なんともポジティブだった。


「心残りはあまり役に立たなかった事です」


 と、今はハルとスリングの練習に精を出している。


 ハザンとアンガーはやはり熱を出した。ヤーモ特製の乾燥ミミズを飲ませたら、二人とも朝にはケロリとして朝メシの催促さいそくをされた。うらましいくらいの体力バカ共だ。


 ガンザたちの待つ、露天市場の街まであと二日程度。傷口がんだりしないと良いのだが。



 金銭的、物品的な被害はほぼなかった。それぞれのポンチョに穴があいた事と、血まみれ汚れが落ちなかった事くらいだろう。


 ああ、あと、俺とクルミちゃんが撃ちまくったスリング玉を拾うのが大変だった。砂に埋もれて半分程度しか見つからなかった。これは大打撃かも知れないな。




 盗賊の置いていった武器やパラシュは、貰ってしまって問題ないようだ。むしろ、聞いた俺が変な目で見られた。ハザンが呆れた顔で、


盗人ぬすっとの忘れ物、返すバカがどこにいるんだよ」


 と言った。


 証拠品として押収とかあるのかと思ったのだが、被害を届け出ても捜査する訳ではないらしい。周囲の街や集落への注意喚起と、警戒の強化が行われるだけだそうだ。戸籍すら明確にないこの世界で、指紋や武器の入手経路なんていう捜査が、出来るはずがないな。


 そもそも警察にあたる組織がない。あるのは自警団と裁判所的な組織。悪人は烙印を押され、街から追放される。だから盗賊団ができるのだろう。俺がとやかく言う問題じゃあないが、それで良いのだろうか。この世界のえらい人、もう少し考えて欲しい。




 盗賊に置いていかれたパラシュについては、難しいところだ。


 第一に餌代が非常にかかる。砂漠では水を大量に飲む馬が高コストだったが、基本的に草を食う馬は安上りだ。


 第二にパラシュは馬車を曳かない。パラシュ用の馬車がないとも言うが、今のところパラシュに大量の荷物を運ばせる手段がないのだ。これはキャラバンとしては大問題だ。


 第三に危険生物であるという事だ。旅の間は良いとしても、シュメリルールの街でどう扱えば良いのか前例がないという。


 まあ、俺は全ての問題をすっ飛ばして、あくびを連れ帰ろうとしている訳なのだが。


 俺にとっての一番の難関は、さゆりさんだったりする。じーさんはたぶんパラシュが好きなはずだ。そんな気がする。ハナもきっと気に入るだろう。



 露天市場の街へ着いたら、さゆりさんへのお土産をたくさん買って帰ろう。


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