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宵の明星

 砂丘のヘリに腰かけて、宵の明星(ルルリアーナ)を眺める。またたくことのないオレンジ色のこの星が、俺はとても好きだ。揺るがない強さを持っているようで、憧れすらいだく。


 星の瞬きは確か、惑星と恒星の違いだったか?


 墨を流したようにゆっくりと寄せてくる夜の色は、よこしまな俺の耳を隠してくれるだろうか。






「それじゃあヒロトは、耳なしがした事で、罪悪感にられて落ち込んでいるのですか? 同族かも知れないってだけで? はるか昔の事なのに?」


 ロレンが畳みかけるように言った。


 倒置法二回も使いやがった。そうだよ! 俺の思考回路しこうかいろは典型的な日本人なんだよ!


「何も言わずにいなくなるから、どうしたのかと思ったら、難儀なんぎな人ですねぇ」


 ロレンがぷぷぷ、とあざ笑うように言う。


「まあでも、そんなヒロトを私は気に入っていますよ」




「俺にはさっぱりヒロトの考えてる事がわからねぇ」


 いつの間にいたのか、後ろからハザンの声がした。


「お前がやった事じゃねぇんだろ? それともやる気か?」


 言いながら空いている方のとなりに腰を下ろす。


 やらねぇよ。今の俺はな。でも、この世界に来ていなかったら、たぶん思ったに違いない。


『なんて面白そうなんだ! 是非とも週末、家族で遊びに来よう!』ってな。


 耳なしそのものじゃねぇか。


「今ここに居るヒロト以外に、他にもヒロトがいるのか?」


 いねぇよ! あーあ、コイツ本気で不思議がってる。俺もおまえみたいに生きたいよ。


「私もハザンに同意しますよ。ヒロトは過去の耳なしではない。今のあなたは私たちを襲わない。それで良いでしょう?」


「ばかやろう! ヒロトなんか返り討ちだ!」


 ハザン、俺いま弱ってるからさ。少しさ、当たりをソフトにさ。ね?



「ヒロトが間違ったら、俺が倒す。だからヒロトは悪い耳なしにはならない」


 振り向くと、アンガーもハルも、クルミちゃんまでいた。


 えっ? アンガー、いま倒すって言った? 止める、だとカッコイイんだけど。俺の訳し方間違ってる?


「おとーさん、ぼくも悪い耳なしにはならないよ。だってぼくはみんなが大好きだもん」


 うん、ハルはきっと大丈夫だ。そしてまともな慰め方だ。


「おじさま、悪い耳なしが来たら、追い返しちゃいましょう。英雄の黒猫さんみたいに、一緒に耳なしの船を壊しに行きましょう!」


 クルミちゃんが宵の明星を指差すようにして言った。ああ、そういえば、クルミちゃんは12歳。そろそろ黒い歴史を刻む年頃だ。


 だんだん真面目に悩んでる自分がおかしいような気持ちになる。俺は助けを求めるようにロレンを見た。


 ロレンは全てを受け入れたような、観世音菩薩かんぜおんぼさつのような顔で笑っていた。



「だからヒロト」


 アンガーが大真面目な顔をして言った。


「腹減ったから、ごはん作って」




アンガーはどこまでもアンガーだった。


クルミちゃんが隣で、大きく同意の頷きを繰り返している。俺もなんだか、腹が減る事より大変な事は、何もなかったような気持ちになった。


そして、たぶんそれはあながち、間違いじゃない。







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