穏やかな朝 後編
家に戻るとリビングのテーブルの上に、朝食の用意が整っていた。
ベーコンとキャベツのスープ。平たいナンのようなパン、ソーセージとスクランブルエッグ。皿は陶器のものと、木でできた器があり、フォークとスプーンが添えられている。
このへんの文化は地球とあまり変わらないようだ。それともさゆりさんが持ち込んだ知識だろうか。トマトを渡しに土間へ向かう。
「泊めて頂いた上に、朝食まですみません。ご馳走になります」
「いいのよ。久しぶりのお客さまだから、張り切っちゃったわ。子供たちは食べられないものがあるかしら?」
「ハナはハチミツがダメですね。じんましんと熱が出ました。ハルは好き嫌いなく食べますが、辛いものは少し苦手です」
トマトを渡しながら言う。
「了解。子供たちの事わかってる良いお父さんなのね」
「育メンですから」
笑いながら言うと、
「なぁに、それ?」
「育児に積極的なメンズの事ですよ。ちなみに家事もそれなりにできます。手伝う事はありますか?」
「へぇー、そんな風に言うの。面白いのね。じゃあ、これ持って行ってくださる? 先に食べていてくださいね」
と柑橘系の香りがする飲みものの入ったピッチャーと、カップを人数分渡される。
食卓に戻り、飲みものを配る。ハルとハナはさっきじーさんにもらったプラムっぽい実を食べている。
リュックからハナの食事用エプロンを取り出して着ける。果肉でデロデロになった口の周りと手を、ハンカチで拭い一旦キレイにしていると、さゆりさんがサラダの入った木製の大きなボールを持ってきて、席に着いた。
頂きますの挨拶をして、食べ始める。
「こんな賑やかな食事は久しぶりね。子供たちが小さかった頃を思い出すわね」
さゆりさんがふふふと笑いながら言うと、
じーさんも目を細めて頷く。
さゆりさんとじーさんにも男女2人の子供がいて、今は自活して街で暮らしているのだそうだ。
騒がしい朝食が終わり、さゆりさんが謎言語でカドゥーンさんと話す。
「子供たちは、主人と畑へ行って色々手伝ってもらっても良いかしら。ヒロトさん、日本の話しを聞かせて欲しいわ」
カドゥーンじーさんが小さな麦わら帽子を2つ持ってきてくれる。
「子供たちのお古だけど、捨てずにおいて良かったわ。お洋服もたくさんあるのよ。良かったら着てくださいね」
なんとも有り難い申し出に礼を言い、2人に帽子を被せる。
「ハル、ハナを見てあげてくれ。カドゥーンさんの言うことを、ちゃんと聞くんだぞ」
よろしくお願いします、とカドゥーンさんに頭を下げる。
「ってまーす!」
「行ってきまーす」
カドゥーンじーさんに手を引かれ、2人がドアから出て行く。
あ、ハナ‥‥、じーさんの尻尾めっちゃ握ってる。
さゆりさんがお茶を淹れてくれる。
聞きたい事は山ほどある。