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笛を吹け! 前編

 キャラバン内で変な事が流行りだした。


 俺たちは砂漠の中の街道を、パラシュの背中に乗って移動する。パラシュの別名は「背負いトカゲ」と言う。この別名は、卵をその背中に、背負うようにして移動する習性から付けられたものだ。パラシュの歩き方、走り方は独特で膝を曲げたまま、上半身を固定するように歩く。背中の卵を落とさないように、揺らさないようにするための歩き方だ。


 その乗り心地は素晴らしく快適だ。普通に歩いている時(馬の早足程度の速さ)は、手綱を握る必要がない程だ。だがしかし、揺れないわけではない。


 クルミちゃんが「運動不足になる」と言い、立って騎乗しはじめた。


「おじさま、これ体幹とか、バランスとか、色々きたえられます!」


 バレリーナというのは、俺の想像以上に自分を鍛える事に貪欲どんよくなようだ。


 面白そうな事にはすぐに食いつくハザンが真似しはじめた。


「へぇ、ただ座ってるよりは面白れぇな!」


 当然、ハルも真似をする。


「バランス、難しい!」




 三日後、ハザンはパラシュの背中で逆立ちをし、アンガーとロレンはお互いのパラシュを飛び移るという離れ業をマスターしていた。


 俺はキャラバンと雑技団の定義について、説明してやりたい気持ちにもなったが、みんな楽しそうなので良しとする事にした。


 ちなみに、三日で俺とハルは普通に立って騎乗できるようになり、クルミちゃんはアラベスク(片足を後ろに高く上げるポーズ)を、ピシッと決められるようになった。


 なんとも緊張感のかけらもない旅路だが、それだけパラシュでの旅が安全であるとも言える。


 パラシュのもう一つの別名は「砂漠のアサシン」。野生のパラシュはかなりの危険生物だ。身体も大きく瞬発力があり、何よりもその顎の力は脅威となる。パラシュの群れに襲い掛かるなどという、効率の悪い狩りをする動物は、砂漠には存在しないのだ。


 唯一注意しなければならないのは、人が相手の場合だろう。ポーラポーラ付近では警戒が厳しくて、なかなか仕事が出来ない盗賊団にとって、ようやく街道に出て気の緩んだキャラバンは、美味しい獲物以外の何物でもなかったらしい。





 夕方の狩りを終えて、俺とハルが街道近くまで戻った時には、既に戦闘が始まっていた。物々しい剣戟が鳴り響き、罵声が飛び交かっていた。


 ロレンがクルミちゃんを背中に守り、アンガーとハザンが大立ち回りを演じている。何よりも脅威となるのは、盗賊のほとんどがパラシュに騎乗している事だ。パラシュの鱗は刃物を通さない。そして騎乗する上から振り下ろされる斬撃は重いのだろう。あのハザンが防戦一方だ。


「ど、どうしよう、どうしよう! おとーさん」


 ちょっと待て! お父さん今落ち着くから!


 俺たちが今あくびで突っ込んだとしても、戦局をくつがえす事は難しいだろう。クルミちゃんがうずくまって頭を抱えている。


 うちのパラシュが見当たらない。盗賊たちが縄を切って逃がしたらしい。見回すと、ひとつ先の砂丘に一匹だけパラシュがいた。


「ハル、いいか? よく聞け。お父さんは、あのパラシュでクルミちゃんを助けに行く。ハルはあくびと一緒に他のパラシュを集めてくれ」


 俺はパラシュ寄せの笛を吹いてから言った。あくびから降りてハルに笛を投げ渡す。


「ハルを頼む」とあくびの背中を叩く。


「おとーさん、ぼくが呼んでも来てくれないかも知れないよ!」


「そしたらあくびと一緒に逃げろ。街まで行って誰か呼んで来い」


「いやだよそんなの! おとーさん! おとーさんってば!」


「大丈夫だ! あくびが何とかしてくれる! ハル頭低くして、あくびから絶対降りるな! 無理にスリング使おうとするなよ!」


 俺は思いつく限りの注意事項を並べ、寄ってきたパラシュに飛び乗る。実際俺は、あくびなら何とかしてくれるんじゃないかと半ば本気で思っていた。


「行け! ハル! 一番高い砂丘から、笛を吹け!」

戦闘突入です。初の対人戦です。


次回、気合い入れて書きますよ!

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