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ルカランとハル、そしてクルミ

 街道の行き止まりの街で、ルカランと別れた。


 ハルはルカランととても仲良くしていたので、これはフォローが必要かなと思っていたら、意外にも笑って手を振っていた。


 聞くと、


「うん、また会う約束してるから」と言っていた。


「ぼくもルカランも、もう少し大きくなれば会いに来られるし、なんかね、ルカランとは、また会える気がするんだ」


 と言って、それでも、やっぱり少し寂しそうに笑った。


 ルカランもいつものように、イーっと歯をむき出すみたいにして笑って、


「またな、ハル! そのうち遊びに行くからさ!」


 と、近所の公園で会った友達みたいに言った。


 ロレンがルカランに、なにかあったら連絡して下さいと言って、商会と街の名前をメモに書いて渡していた。ルカランはガイドとして、とても良い仕事をしていたし、いたずらっ子そのもののような様子は、何とも微笑ましかった。


 ハザンが、


「明日から寂しくなるなぁ」と言って大きく伸びをした。


 ハルが、


「また会える、大丈夫!」と言った。


 そんな風に言うハル、ハルになぐさめられているハザン。俺は我慢できなかったので、二人の髪の毛を順番にワシャワシャとしてやった。


 ハルはえへへと笑い、ハザンは「俺もかよ!」と、少し不服そうだった。


 この世界で大きくなるつもりでいるハル。この世界にすっかり同化しているハナ。俺もどんどん手放せないものが増えていっている。


 この世界とどう関わり合いになってゆくのか、俺も先延ばしにしていた事を、考えなければいけないのかも知れない。





 行き止まりの街で、また水と生鮮食料品を少し仕入れてから、月夜の砂漠をパラシュで行く。登りはじめた月齢の若い上弦の月が、砂丘の赤い砂にパラシュの影を落とす。


 これがラクダの影なら旅情あふれる絵葉書のような光景なのだが、六つ並んだパラシュの影だと怪獣映画かいじゅうえいがのオープニングにしか見えない。






「じゃあおじさま、この世界で暮らしていると、私もこの世界の人と同じようになるって言うんですか?!」


 あくびの背中で、延々と続く質問に答えていたら、クルミちゃんが泣き出しそうになりながら言った。


「クルミちゃん、落ち着いて。さゆりさんとうちの娘がそうなったっていうだけで、必ずそうなるとは限らない。現に、俺とハルは何も変わっていない」


「クルミお姉ちゃん、ハナちゃんはユキヒョウになると、ものすごーく可愛いし、耳も尻尾もふわふわなんだよ」


 並走するパラシュに乗ったハルが言った。ハルくん、その通りなんだけど、今はちょっとその話しは待って。


「ハルくん、私もこの世界の人の耳や尻尾はとっても素敵だから、ずっと羨ましいと思ってた」


 あれ? 良いのか?


「でも、それで高く跳べるようになったり、早く回れるようになったりしたら、そんなのズルじゃない!? 私は、私の身体で踊りたい!」


 ああ、なるほどね。


「ハル? わかるか? 例えば神さまが、どんな折り紙でももの凄く上手に折れるように、魔法をかけてくれたら、嬉しいか?」


「そんなの嬉しいに決まって‥‥。あ‥‥やっぱり嫌だ。そんなの楽しくないし、いっしょうけんめいやったの、なしになっちゃう」


 うん、そういう事だ。


「お父さんも、凄く絵が上手に描ける、魔法の色鉛筆があったとしても、使わない」


 俺はえぐえぐと泣き出してしまったクルミちゃんの背中を、トントンしながら言った。


「そういう訳だ。帰る方法と、同化の原因、一緒に頑張って見つけよう!」


 この世界が、彼女の歯を食いしばった日や、投げ出さなかった勇気を、なんの断りもなく塗り替えるような、そんなことわりを突きつけるならば、あらがわなくてはいけない。


 俺も、どうしても耳と尻尾が欲しかった『耳なしクロル』とは違う。じーさんと生きてゆくと決めたさゆりさんとも、息をするように自然にこの世界を受け入れたハナとも違う。


 まずは図書館で調べた、耳なしの伝承をちゃんと訳さないといけないな。耳なしという存在が、この世界にどう関わっているのか。この世界にっての『耳なし』と、俺たち人間が同じものだったとしたら、見えてくる事があるかも知れない。


 俺はふと、『耳なしクロル』の昔話の続きが気になった。クロルは空飛ぶ船でどこに連れて行かれたのか。あのお話しには、続きがあるのではないか?


 なぜ、今、空飛ぶ船は飛んでいないのか?


 そんな事を考えながら、クルミちゃんの人間離れしてピンと伸びた背中を、いつまでもトントンしていた。


 気づいたらクルミちゃんはとっくに泣き止んでいて、少し困ったような顔で俺を見上げていた。




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