ポーラポーラ
更新が滞りました。もし、待っている方がいらしたとしたら、ごめんなさい! 安定しない更新で、不安に感じる方がいるのでしょうか。安心して下さい! 放置など絶対にしません。私もヒロトも絶対に諦めたりしません。
必ず皆さんを、この旅の終着地点へと連れてゆきます。だからどうか、ヒロトの旅を一緒に楽しんで下さいね。
砂嵐をなんとか、まあ、そこそこ無事に乗り切ってから2日。俺たちはほぼ予定通りに砂漠を越え、宝石の産地『ポーラポーラ』へと到着した。
この街の警備は、他の街とは比べものにならないくらい厳重だった。街へと続く道は、そびえ立つ岩山に挟まれた一本道のみ。この道の入り口と、街の手前二ヶ所に門があり、衛兵がいるのだ。
この世界における宝石の定義は、地球とあまり変わらない。つまり、少ししか産出されないのに、綺麗だからみんなが欲しがって、値段が高くなった石だ。俺は地球の宝石の事さえ良く知らないので、この世界の宝石の事など、全然わからない。とても綺麗だという事以外は。
金になる物には、人が群がる。中には人の道から外れても、手に入れたい輩もいる。そんな事情がこの街に門を作り、衛兵を立たせるのだろう。
ポーラポーラは、宝石を買いに来た人と、それに携わる人しかいない、ある意味完成された、そして歪な街だった。
ほとんどの人は、砂漠とは反対の海側からやってくる。街道の途切れた砂漠を、わざわざ越えて来る商人は少ない。つまり、サラサスーンに宝石が入ってくるルートは、海側から大きく回り込んでいるのだ。ポーラポーラの宝石は、そのルートを辿るうちに、いくつもの人の手を経由して、その度に値が上がって行く。
ロレンはこのルートを、強引にショートカットしようとしているのだ。成功すれば、さぞかし儲かるのだろう。
なんとなく、ロレンと大儲けがイコールで繋がらない。少なくとも俺が見てきたロレンとは。
今回の取引は、安く仕入れて高く売る、という商売の鉄則を守りながらも、誰かが困る訳ではない。自分のお人好しを恥じているロレンが、負ける人が誰もいない商売を模索しているのだろう。
バカだなぁロレン。おまえのお人好しは、いい仕事をしているじゃねぇか。チョマ族の族長の尾羽は開いていたし、ドルンゾ山の麓の村はラーザの干物を楽しみにしている。
砂漠の小さな集落の女の子が、サラサスーン産のトマトを齧った時の顔、見ただろう? あの顔は、おまえのものなんだよ。
ロレンがあの顔を見たいと言うから、おまえのキャラバンの面子は砂漠を越えちまうじゃねぇか。あいつらも大概なお人好しだ。
おまえは、大儲けしたとしても大金持ちには、たぶんなれねぇな。みんなわかってるさ。だから思うようにやれよ。
とまぁ、いつかロレンにそんな事を言ってやりたいとは思う。俺の異世界語レベルがあと30も上がったら、伝わるように言えるだろうか。
一年後くらいを目標にしよう。素面で言える気もしないけどな。あ、俺酒に酔わねぇ体質だった! まぁいいか。
ロレンが宝石の買い付けという鉄火場へ挑む頃、俺とハルはポーラポーラの街を出て海辺の街『ミトト』を目指す。
ミトトは港のある大きな街だ。この世界にも、荷物や人を運ぶ大きな船があるそうだ。往復で二、三日。少しみんなを待たせてしまう事になる。
せめて何かナナミに関する情報が欲しい。
ああ、また俺は期待値の上限を下げているな。ナナミに逢えなかった場合を想定して、自分を守ろうとしている。
気がつくと俺は、小さな声でビートルズのlet it beを口ずさんでいた。
この曲は歌い始めると、いつまでも終わらない。エンドレスで繰り返してしまう。そのうちにハルも覚えて一緒に歌い出した。
俺たちは砂漠の名残りの風に煽られながら、あくびの背中でいつまでも同じフレーズを、繰り返し口ずさんだ。