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別行動

 夕方、パラシュに乗る練習にと、街の周りを走った。このトカゲ、上半身と下半身が別物みたいな走り方をする。ちょうど能や狂言の動きみたいで、膝を伸ばさずに上半身を固定したまま足を踏み出す。すり足のような足運びは、砂を撒き散らさない為なのだろうか。


 おかげで背中に背負われるように乗っている俺とハルは、胃の中がシェイクされずに済むのだが。


 意外にも呑気な性格のようで、クワァっと凶悪に口を開いて、あくびをしたりしている。


「ぼく、トカゲのあくび、はじめて見たよ」


 ハルが言った。うん、お父さんも見たことないな。舌がベビーピンクで柔らかそうだ。


 俺たちの乗るパラシュの名前は『あくび』に決まった。呼ばれて飛び出て‥‥、イヤ、何でもない。


 ちなみに他のパラシュとの区別は、今のところ出来てはいない。


 一旦あくびを借りパラシュ屋に戻す。店番の親父の話だと、パラシュは卵を背負って歩くそうだ。粘り気の強い唾液で、背中に卵を固定して落とさないようにすり足で歩くため、背負いトカゲと呼ばれているらしい。そんな大切な本能を、荷運びや騎乗に利用しているのか。業の深さに少し胸が痛んだ。


 店番の親父に言って、パラシュの餌やりを見せてもらう。ついでにちょっとやらせてもらう。パラシュは肉食だ。ぶつ切りにした肉を、ポーンと投げる。空中でパクっと受け取って食べる。目も、反射神経も良いようだ。なんともワイルド! そしてちょっと楽しい。


 水は普通に桶から飲む。身体を洗ったりブラッシングは必要ないが、水をかけると喜ぶそうだ。寝る時は立ったまま、夜行性だが、明るくても問題なく走るらしい。


 正面に立って、急激な動きをすると、反射的に噛み付く事があるので注意するように言われた。腰と首の可動域が狭いので、背中に乗っている時は安全なのだとか。




 露店の市を歩き、日除け用の被りフィーヤを買う。フィーヤは薄く大きく汎用性が高い。今までは夜移動していたので、ポンチョのフードでどうにかなっていたけれど、この先使うかも知れない。砂漠の人は、この世界でも頭から布を被っている。頭にぐるぐる巻いたり、目と耳だけ出して顔を隠したり。


 俺はアイボリー、ハルは薄花色うすはないろ(薄い藍色のこと)の布を選んだ。裾のフリンジに小さなビーズが施してあるだけの、シンプルなものにした。


 露店のオバチャンが、鼻に砂の入らない巻き方で、ポンチョの上から布を巻いてくれた。俺もハルも、どんどん民族色がごった煮になっていく。でもこんなカオス感は嫌いじゃない。




 教会に寄り、ここでもナナミの似顔絵を預けてから宿屋へ戻る。出発組は昼間のうちに仮眠を取ってあるので、ひと休みしたら出発となりそうだ。




 トプルが、


「ヒロト、嫁さん、見つかると良いな」と言った。


 ガンザが、


「ハル、居眠りしてパラシュから落ちるなよ」と言い、


 ヤーモが、


「サボテン、なるべく回収しながら進んで」と言った。


 それぞれが頷き、ちょっとそこまで、と言った気楽な様子でパラシュを走らせはじめる。ハルが「行って来まーす!」と手を振った。俺も軽く手を挙げる。


 この街に戻るのは約一ヶ月後。砂漠の旅は、まだまだ続く。



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