砂漠にて
砂丘に挟まれるように伸びる街道を馬車が走る。薄っすらと砂に覆われた石畳は、いつか砂に飲まれてしまいそうで、心許ない気持ちになる。
ナツメ椰子に囲まれた、小さなオアシスをひとつ、露店が立つ小さな街をひとつ越えた。いつくかの荷を降ろし、ナツメ椰子やサボテンの実、サーボスの粉を買う。サーボスの粉はオアシスに生える木の実を挽いた粉で、砂漠の民はこれでパンを焼く。硬いが栄養があって腹にズッシリくる。
ナツメ椰子は地球のものと良く似ている。生でも食べられるし、ドライフルーツにすると干し柿のように濃厚で甘い。そして、サボテンの種類はサラサスーンと、比べものにならないくらい豊富だった。
味や食感も様々で、肉の旨味が沁みやすい大根っぽいものや、オクラっぽいネバネバ、アスパラっぽく瑞々しいもの、ほのかに甘くサクサクとした、マカロンっぽいものまである。共通しているのは、生でも食べられるし、料理にも使える。そして乾燥に強く保存も効く。
サボテン万能過ぎる。輸送時のリスクさえクリア出来れば、もっと流通するだろうに。
ナツメ椰子の木陰で、水場を眺めているだけで、染み渡るような安堵感を感じた。水の心配などした事のない日本人には、砂漠のプレッシャーはキツイ。水の樽が全て漏れていて、途方に暮れる夢を何度も見た。俺は口に入れるもの全般と、1日に20リットルも水を飲む馬の世話を任されているのだ。
露店で砂漠の民が使う鍋を見つけた時は、飛び上がるほど嬉しかった。蓋が三角帽子のように尖っていて、鍋の中の水蒸気は三角帽子の天辺で水滴になって鍋に戻る。砂漠ではこの鍋でほとんど水を使わずに煮込み料理を作るそうだ。
「次の街で、馬車を降ります」
実際、馬の消耗は激しく、水の消費も大き過ぎる。だから野営中にロレンがそう言った時には、誰もが頷いた。
それは同時に、馬や馬車と一緒に留守番をする人が必要になるという事だ。そして、街道の行き止まりの街で降ろすはずだった荷物を、どうにかしなければいけない。
「ガンザ、次の街は大きい市が立ちます。露店を出して、荷物の商品を捌いて下さい」
うん。ガンザは人当たりもいいし、交渉も出来る。きっと海千山千の客にも負けないだろう。
「トプルは馬の世話と、馬車の護衛をお願いします」
うん、トプルは腕っ節も立つし、よく俺が馬の世話をしていると手伝ってくれた。
「俺も残っていいか?」
ヤーモが珍しく手を上げて言った。
「ああ、ヤーモは暑いのが苦手ですからね。わかりました」
3人も抜けるのか。
「俺とハルは?」
俺が聞くと、ハルが泣きそうな顔をした。自分は残っても着いて行っても、役に立たないと思っているのだろう。
バカだなぁハル、大人に混じって役に立つ8歳児なんているわけないだろう?
「ハルは大切な癒し要員ですからねぇ。ハルを連れて行っても良いですか?」
ロレンが留守番組に聞く。
「仕方ねぇな。ハルは譲ってやるよ! 俺たちはのんびり留守番するさ」
ガンザが言った。みんながハルを気遣ってくれるのは嬉しいが、心苦しくもある。
それはそうと、俺は連れてってもらえんのか、な?