3-29. 魔王と約束の日 人生で二番目に最悪な日
アルとアイリの出会いは一旦ここまでです
幕間などでディアブラとの契約の時の話なども書きます
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趣味で書きなぐっていた素人小説の投稿です。
語彙力や表現力等まだまだ足りないところばかりですが、楽しんでもらえるように頑張ります!!
少しずつでも、コンスタントにUPしていきたいです。
応援、よろしくお願いします。
Twitter:@TamaSala_novel 次回予告を呟くとかつぶやかないとか
外伝:https://ncode.syosetu.com/n5068ex/1/ カケル君達紅蓮隊メインの外伝ストーリーです。2話まで更新済み
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「あ、、、寝てる?」
いつもあたしを交代で見ている子が、椅子に座って居眠りをしている。
あたしが自殺しないように常に誰かがそばにいるのだけれど、一緒に食べたフルーツを剥いたナイフがテーブルの上に無造作に置かれている。
あたしは運ばれたトレイに置いてあるナイフに手を伸ばした。
家庭用の刃の鈍いナイフ、切れ味は期待できないけど切れてしまえば良い。
あたしは自分の首にナイフを当てる、これをぎゅっと力強く押し当てて勢い良く引けば死ねるかもしれない。
震える手をもう一方のてで必死に押さえる。
あたしはちらりと監視役の女の子を見た。
あたしより後にアル様に同じように拾われてきたのに、立ち直りメイドとして一人立ちできるように頑張っている子。
「ごめんね。怒られてしまうかもしれないけど、許してね。」
そう告げて手に力を込めてナイフを引こうとした、その時だった!
「なんだ、やっぱり死ぬのか?」
さっきまで誰もいなかった筈の目の前に、その人は立っていた。
驚いてナイフを落とす。
アイゼンと呼ばれていた男の人だ。
アイゼン様は落ちたナイフを拾って、あたしに手渡してくれた。
「ついでに刃を鋭くしておいた。今なら簡単に死ねるぜ?」
こ、この人は死ぬ事を後押ししてくれるの!?
アル様の師匠なのに?
あたしが動揺していると、アイゼン様はナイフをあたしから取り上げた。
「なんだ?できねぇなら手伝ってやろうか?」
刃先をあたしに向けて軽く振った。
あたしの目の前で鋭くなったナイフが踊る。
「きゃっ!」
あたしは咄嗟に仰け反って避けてしまった。
「なんだ?死にたいのか、死にたくないのか、どっちだ?」
「あ、あた、あたし、は、、、」
アイゼン様はやれやれと言った感じでナイフをどこかへと消すと、あたしの頭をぎゅっと掴んだ。
アル様の師匠とは思えない程に粗野な態度に苛立ちが湧いてくる。
「一つ道筋を示してやる。お前がこうなったのは誰のせいだ?」
「そ、それは、、、あ、あたしが」
「ちげーな!貴族どものせいだろうが!!」
「それは、でも、、、。」
「どうせ捨てる命なら仇の一つでも殺ったらどうだ?」
「かた、き?」
「アルベルトのやつな、あいつだって貴族だ!お前の家族を奪い、そして今度はお前を、さぁ!」
そう言って、耳元でパチンッ!と何かが弾ける。
「本当に悪いやつをさばけ!」
そこまで言ってアイゼンは、また姿を消した。
と同時にガタン!と音がなる。
さっきまで寝ていたメイドの少女が目を覚ましたようだ。
「あ、アル様!」
そこにアル様が暖かいスープを持ってやってきた。
最近はいつもこうだ。
あたしのベッドの横に座って、今日の冒険はどうだったとか修行がきつかったとか色々な事を一方的に話しかける。
アル様がいつもの位置に座る。
そしてスープを私に手渡そうとした時だった!
『さぁ!仇をうて!悪いのは貴族だ!こいつも貴族だ!』
男の声が脳内に響く!
アル様も貴族、、、アル様も貴族!アル様も貴族!アル様も貴族!
貴族は敵だ!
アル様が差し出したスープの入った皿を左手で弾くと、いつの間にか右手に掴んでいたナイフをアル様の左腕に突き出していた。
「キャー!!アル様!アル様が!!誰か!」
メイドの女の子が、走って誰かを呼びに行く。
「び、ビックリした!!」
アル様はすんでの所でナイフを掴んで止めている。
「あ!あ!」
あたしは!なんて事を!
なぜこんな事をしてしまったの!?
わからない!
ただ、貴族が悪いんだって思って!
貴族を殺してやるって!
アル様は命の恩人なのに!!
「そうやって優しい振りをして、あんただって貴族じゃない!!あたしのママやパパ、弟を殺した貴族と同じよ!!結局あたしをどうにかするつもりなんだ!!やるならさっさとやれば良いじゃない!!」
違う!アル様と半年も一緒にいればわかる!
この人は本当に優しくて温かくて!
あたしを大事にしてくれている!
「そ、そんな事はしないよ?」
「信じるもんか!!貴族はみんなおんなじよ!!」
知っているし信じてるのに!
口を開けばアル様を苦しめてしまう!
アル様は凄く悲しそうな顔をする。
いや!こんな事言いたく無いのに!
だけど、アル様は急に何かを閃いた様子で一気に表情が明るくなった。
「じゃぁ、誓約を掛けようよ!!」
「せ、せいやくって何よ!?」
「勇者スキルの一つ、僕を勇者にした神に約束の証人になってもらうんだ。神の名の下の約束だね。」
え!?
そ、それなら、、、いや!ダメ!そんな事しちゃったら、一生!
「ふん!本当になにもしないと誓えるなら、やりなさいよ!」
「あぁ!これで信じてもらえる筈さ!」
アル様の右手に青白い光が宿る。
「勇者アルベルトは一生アイリに手を出さないと誓う。誓約」
私に向けて差し出した人差し指が青白く光る。
「さ、僕の指に君の人差し指を当ててからアクセプトと唱えて?」
あたしは言われた通りに人差し指を当てて唱えた
「あ、、、アクセプト」
パリンッ!
青い光がはじけて飛んだ。
「いっっ」
チクリと人差し指に痛みが走る。
「さ、これで僕は一生アイリに手を出す事は出来なくなったよ。さすがに信じられるでしょ?なんたって神様が保証するんだから。もし、破ったら物凄い神罰で気を失う程にいたいんだって!」
ゆっくりと頷いてみせた。
「よかった!さぁ、スープがこぼれちゃったし掃除しなきゃ!ララに怒られちゃうからね。」
そう言って背を向けて立ち去るアルベルトの服の裾を咄嗟に掴んだ。
「ん?どうしたの?」
「これまで、、、ごめんなさい。」
そこまで言って、涙がこぼれ落ちたのを感じた。
「たすけてくれて、、、ありが、あ、あれ?なんで?」
必至に目をこすって拭くが、溢れ出す涙を抑える事が出来なくってどうしようも無くなる。
「あたし、、、たすかっていいのかな?」
「良いんだよアイリ、悪いのは君じゃなく貴族なんだから。」
あたしはアル様の服を掴んでずっと泣き続けた。
後で聞いた話だけど、アイゼン様はあたしが自分を責めてばかりだから矛先を貴族に向けさせて発散させるために暗示をかけたらしい。
ターゲットに選ばれたのは身近で攻撃しても反撃しない貴族のアル様。
ララメイド長が騒ぎに駆けつけなかったのもアイゼン様の仕業だと気づいていたから。
それは成功だったのだけれどまさかアル様がそれで禁欲の誓約をしてしまうとは思っても見なかったと言っていた。
これが、アル様と出会った日から約半年後の出来事。
そして、今もなおこの日の事を後悔し続けている。
これがアル様とあたしが絶対に結ばれる事が無い理由。
あたしがどんなに彼に抱かれたいと願っても、彼にそれを望む事は出来ない。
あたしと御主人様と神様とで約束を交わした日。
人生で二番目に最悪な日。