クリスチャン
え?猫?猫がソファに……あ!
「クリスチャン!」
「なんだよ。驚いて。俺がたまに顔出すのはいつものことだろ?」
そうだ。ここはファンタジーの世界だった。クリスチャンは放浪の旅をしている猫だ。この世界では動物が喋るのは珍しいことではない。しかもクリスチャンは三毛猫のオスだ。地球では三毛猫はメスがほとんどだから、この世界での遺伝子はよくわからない。
クリスチャンは時々うちに来ては、旅の話をしてくれる猫だ。
「ん? ……お嬢、人払いをしてくれ」
「クリスチャン?」
「たまには二人でゆっくり話すのもいいだろ?」
「……そうね。ナタリー、お茶を淹れたら下がってちょうだい」
「かしこまりました」
ナタリーを始めとして、他の側仕えも下がらせてからクリスチャンが口を開いた。
「お前、誰だ?」
やっぱり。クリスチャンには「佐藤章子」としての私がわかるんだわ。
「クリスチャン、正直に言うわ。私は以前『佐藤章子』という名前だったの。その頃の記憶が戻ったのよ。でも、アンジェリアとしての記憶もあるわ」
「へえ、そいつは面白い。前世を思い出したってことかい?」
「ええ、そうよ。私は以前、暗殺集団に属していたの。だからこれからは体を鍛えたいのよ。クリスチャン、協力してくれない?」
この際だわ。「猫の手も借りたい」ものね。意味は違うけど。
「ナイフと軍隊に入れる服が欲しいの」
「軍隊? お嬢が?」
「お願い。他に頼める人がいないの」
「面白いじゃねえか。お嬢がどこまで出来るか見せてもらうぜ」
「ありがとう! クリスチャン!」