公爵家へ
「クリスチャン……」
クリスチャンの言っていることもわかる。でも不安が押し寄せてくる。どうしたら……。軍隊に入って戦士になりたい。このままラッセについていけば、きっとなれるし、ラッセと一緒に功績もあげられるだろう。でも、ラッセに迷惑がかかるのも確かだ。女のくせに、と言われるだろう。それにラッセは伯爵だ。あの馬車の紋章。王妃教育で習ったものだわ。
「アンリ、考え過ぎだ」
私が考え込んでいるのをラッセが止めた。
「でも、ラッセ、あなたは伯爵でしょう? 私と一緒にいたら、醜聞になるし、王家からも睨まれるわ」
「俺が伯爵とわかったのか」
「紋章でわかったわ」
「さすが未来の王妃だな」
「からかわないで! 私はエサイアス王子と結婚なんてごめんだわ!」
「……軍隊に入っても王妃にはなれるぞ」
「だから、あの王子と結婚したくないのよ!」
「ふ~ん」
ラッセはわかったのかどうなのか、どうでも良さそうな返事をした。
「お嬢、今はラッセについていけばいい。ラッセはお前を従者として一緒に戦ってくれるだろう」
「それは……」
わかっている。このままラッセに着いていけば、私も戦いやすい。私のことを理解し、一緒に戦ってくれると言うのだ。この機会を逃す手はないかもしれない。
「ラッセ、本当に私でいいの?」
「くどいな。俺はお前を評価している。貴族だからではない。お前の戦闘能力をだ」
「ラッセ……」
私は嬉しくて涙が出そうになった。この階級社会で女の私を認めてくれるのは少ない人間だけだ。お母様は魔法部隊だから認められた。貴族にしか使えない魔法。だからこそ強い魔力の人材は重要だ。だが、貴族で私のように平民と同じように、体ひとつで戦う者はいないだろう。ただのじゃじゃ馬では済まない。ラッセまで好奇の目で見られ、私は邪魔になるかもしれない。
「アンリ、決意は出来たか?」
「ラッセ……」
「まだごちゃごちゃ悩んでいるのか? 仕方ないな。とりあえずは公爵家へ行くぞ」
え?
「ラッセ、公爵家って……」
「お前の家だ」
「ええ!? 私のこんな姿を見たら、お父様は卒倒するわ!」
「だが、最終的には必要なことだ」
「それはそうだけど……」
「お嬢、俺も行くから心配するな」
「クリスチャン……」
「とにかく行こうぜ」
「今から!?」
「善は急げ、だろ?」
なんだかクリスチャンが楽しそうに感じる……。それにラッセも。お父様が卒倒する前に話をつけられるかしら……。
「馬車の用意を」
ラッセの声が響く。これは腹を決めなければいけないわ。
馬車はラッセ、クリスチャン、私を乗せて走り出した。公爵家へ、私の家へ向かって。