客室
私がラッセの後ろを着いて屋敷に入ろうとした時だった。
「おまえ、ここは正門だ。裏へまわりなさい」
執事のきっぱりとした声が聞こえた。当然私のことだろう。
「ああ、こいつは俺の従者だからいいんだ」
ラッセが言った。
「従者……ですか? こんな子供が……?」
執事は疑わしそうな目で私を見た。
「ああ、だから俺の部屋の隣部屋の客室を用意してやってくれ。それから身支度もな。これからのことを話さなければならないからな」
「ラッセンハイド様の隣部屋ですか!? それはいくらなんでも出来ません」
「どうしてだ?」
「いざというときにラッセンハイド様に何かあったら大変なことです。この者を信用しているのですか?」
「ああ、信用している。仕官の俺にずっと仕えてくれてたんだからな」
「……かしこまりました。隣部屋へ案内させましょう」
執事は私に疑わしそうな目を向けたが、この家の主人の言うことには逆らえなかったようだ。
「案内は俺がする。どうせ隣部屋だからな」
「ラッセンハイド様! それは使用人の仕事でございます!」
「相変わらず固いな。俺が連れていくと言っている」
ラッセは鋭い声を出した。
「かしこまりました」
執事も諦めたようだ。
「こいつはアンリだ。体を洗う湯と着替えを用意してやってくれ。それと髪に巻く布もな」
「……かしこまりました」
「アンリ、こっちだ」
ラッセは私を客室へ案内してくれた。
「俺の部屋はこっちだ。何かあれば呼べ」
ラッセの隣部屋だなんて……いいのかしら。執事が言っていたように得体のしれない私を隣に住まわせるなんて。
「不思議そうな顔をしているな。とりあえず身支度を調えろ。話はそれからだ」
「はい」
私は客室へ入った。見事な客室だ。私がそんなことを考えていると、お湯を持った使用人が入ってきた。
「お湯をお持ちしました。体を洗わせていただきます」
え?
私がぽかんとしていると、使用人が私に近づいてきた。きゃあ! ヤバい!
「あの! 自分で洗えますから!」
私は悲鳴のような声をあげた。
「でも、ラッセンハイド様から、お客様として扱うようにと……」
使用人も困った様子だ。しかしここで脱いでは女とバレてしまう。
「ラッセンハイド様には私から伝えますから」
「かしこまりました。ではお着替えをこちらに置かせていただきます」
ふう、なんとか第一関門突破だわ。でもお湯を使うのは久しぶり。なんだか嬉しいわ。
私は服を脱いでお湯へ入った。ああ、気持ちいい!ふんふんふんと私は鼻歌を歌いながら、髪の毛も洗い、服を着た。服はシルクで出来た上等のもの。私は髪の毛を拭きながら鏡を見た。そこには公爵令嬢の私がいた。
しまった! 綺麗にし過ぎて女ってばればれの顔になってる。でも汚す訳にもいかないし……。でもでもラッセは私の髪の毛のことも知ってるし……。私が髪の毛を乾かすと、サラリと銀色の長い髪の毛が滑り落ちた。は、早く布を巻かなければ!私があたふたしている時だった。
「アンリ、入るぞ」
ラッセの声だった。
「ま、待ってください! まだ仕度が!」
「男同士だろ。気にするな」
きゃああ! 気にするわよ!
私は慌てて布を髪の毛に巻こうとした。
ガチャリ
さらさらさら
私の髪の毛がこぼれ落ちた。