ラッセ
ラッセが部屋へ帰ってきた。私はどうしたら良いかもわからず、ラッセを見上げた。
「アンリ、驚いただろう?」
「は、はい。副将軍とは知らずに失礼を……」
私ははっとして、ひざまづいた。
「アンリ、立て」
「で、でも」
「アンリ、俺とは今まで通りで構わない」
私は顔をあげた。するとラッセは優しく笑っていた。その笑顔に私は吸い寄せられるように立ち上がった。
「アンリ、まずは座ろう」
「はい」
ラッセと私は部屋にある小さな椅子に腰掛けた。
「アンリ、聞きたいことがあるだろう?」
「それは……」
沢山あるに決まってるじゃない! ラッセはふっと笑った。
「まずは自己紹介か。俺はラッセンハイド。副将軍で貴族だ」
ラッセは隠す気はなさそうね。
「何故? という顔だな。俺は士官達の中に紛れることで士官の生活を知り、この国の軍隊について考えたかったんだ。軍隊の強さを図るために必要だったのさ。俺が一番適任ということで、俺がこうして士官の振りをした訳だ。つまりは下町育ちっぽく見えたのさ」
ラッセは淡々と語った。
「それから、俺の付き人捜しでもあった。以前お前にも言ったが、俺は同志が欲しかったからだ」
「どうして同志を……?」
「戦場で戦うためには同志として俺を助け、俺と一緒に戦えるやつが必要だった。お前は強くなる意志があるし、実際強くなっている。お前は俺にとって今や大事な付き人だ」
そこまで私を評価してくれていたの!? だからあんなに訓練をしてくれたっていうことなのね。でも、そんな……。なんだか恥ずかしい……。
「赤くなってるぞ」
ラッセは笑いながら言った。私は思わず両手で頬をおさえた。
「お前はどう思う? このまま俺の付き人でいいと思うか? もしも貴族の付き人が嫌なら、お前にも選択権がある。どうだ?」
どうなんだろう。ラッセが貴族だからといって、私を強くしてくれたのは彼だ。それに、彼とは気心も知れている。
「私は……このままラッセの付き人でいたいと思っています。私は強くなりたい」
「何故だ?何故そんなに強くなりたい?」
「私は自分の身を守れるように、皆を守れるようになりたい」
「皆とは?」
あ! 領地の皆を異形のもの達から守りたいって言っても平気かしら。いえ、領地のことは言えないわ。
「この国の人達です」
「やっぱりな。お前の目には揺るぎないものがある。だからこそお前を付き人にしたんだ。じゃあ俺の家に来ても平気だな?」
ん? ラッセの家というと貴族の家? まさかと思うけど、バレないわよね?
「えーと、はい」
「どうした? いつもハキハキしてるお前らしくないな」
「そんなことはありません」
これは覚悟を決めなければ!
こうして私はラッセの家にお世話になることになった。