クリストファー王子2
部屋に静寂が満ちた。その静寂を破ったのはクリストファー王子だった。
「立ちなさい」
「……」
私は顔も上げられずに、俯いてひざまづいたままだった。
「……アンジェリア、他の者に言うつもりはないから、顔を上げて」
やっぱりバレてたか。私は顔を上げると、ゆっくりと立ち上がった。
「クリストファー、私……」
「うん。何か訳があるんでしょ。私は他の者に話すつもりはないけど、女性が男性の中へ入るのは危険だよ」
「気遣いありがとう。でも、どうしても強くなりたいの」
「そう。昔のように?」
え?
トントン
「殿下、そろそろ……」
カスパル将軍の声だった。
「わかった。開けても大丈夫だ」
バタン
「アンリが粗相をしませんでしたでしょうか」
ラッセの言葉にクリストファー王子は答えた。
「ラッセンハイド、良い付き人を持っていますね。これからも付き人として、大事にしてあげてください」
「はっ! 過分な御言葉ありがとうございます」
「では、帰ります」
さっとクリストファー王子の側仕えと近衛兵が出てきて、王子を取り囲んで出ていった。
「アンリ、殿下と何を話したんだ?」
ラッセが聞いてきた。でも答えられない。
「あの……お話しできません。殿下とのお約束で……」
ああ、苦しい言い訳だわ。
「……そうか。なら無理には聞かないことにしよう」
私の言葉に答えたのはカスパル将軍だった。
「将軍!?」
ラッセは驚いた声を出したが、将軍は動じなかった。
「ラッセンハイド、殿下とのお約束を破る訳にはいくまい。無理矢理聞き出したりするなよ。」
「……わかりました」
ラッセは不満そうだったが、私はほっとした。のも束の間。
「アンリ、殿下の御言葉も大事だが、お前はラッセンハイドの付き人だ。ラッセンハイドの言うことをよく聞くように」
「はい」
私は将軍にひざまづいて答えた。この将軍も何を考えてるのかわからないわ。
「では私も帰ろう」
「お送りします」
将軍の言葉にラッセが応じた。
「アンリ、お前はここで待機だ」
「はい」
ラッセに言われ、私は二人が出ていくのを見送った。
はあ、疲れた。クリストファー王子にはバレるし、ラッセは副将軍だし、なんなの!? これからどうしようかしら。とりあえずはラッセに事情を聞かなければ。場合によっては付き人を辞めなければいけないかもしれない。せっかく軍隊に入ったのに……。
私は途方に暮れた。