クリストファー王子
「アンリ、顔を上げろ!」
ラッセの叱責が聞こえた。バレる! クリストファー王子に絶対バレる! でも顔を上げないのもまずい。私は覚悟を決めて顔を上げてクリストファー王子を見つめた。クリストファー王子の表情は変わらない。かといってバレてないかはわからない。身分の高い者は感情を表に出さないからだ。
「名はなんと言う?」
「ア、アンリと申します」
「そうか。ラッセンハイドを助け、この国の助けとなるように」
「はい」
クリストファー王子はそれだけ言うと、訓練場へと目を向けた。
クリストファー王子は一通り訓練を見ると、満足したようだ。
「ではこれで帰る。カスパル将軍、ありがとう」
「はっ! 勿体ない御言葉、ありがとうございます」
私達はまたしてもひざまづいた。ほっ。このまま帰ってくれるのね。と思ったが、そうではなかった。帰り際、ラッセに声をかけた。
「士官の部屋を見てみたい。ラッセンハイド、あなたの部屋を見せてください」
「部屋……ですか。殿下がいらっしゃるような場所では……」
「ラッセンハイド、副将軍でありながら士官として使っていた部屋です。是非見せてください」
これは……クリストファー王子は気づいている。私のことに。
「かしこまりました」
ラッセも覚悟を決めたようだ。ああ、もうおしまいね。ラッセは自分の部屋へと王子を案内した。
「こちらです」
ラッセが扉を開けると、クリストファー王子は躊躇いもなく中へ入っていった。
「……ベッドが二つあるようですが……」
「付き人用です」
クリストファー王子は考え込むと、私を見た。
「アンリ、と言いましたか。付き人としてのあなたと話がしたい。皆、外へ出るように」
「クリストファー殿下!?」
カスパル将軍の声が響いた。
「それはなりません。付き人と二人になるなど……」
「何故です? 我が国を守ってくれる一人です。問題はありません」
「では、せめてラッセンハイドを……」
「カスパル将軍、ラッセンハイド、外へ出なさい」
温和なクリストファー王子とは思えないほど、威圧感のある声を出した。
「アンリ、失礼のないように」
カスパル将軍とラッセに釘を刺され、二人は出ていった。扉の前は近衛が守るらしく、出ていかなかった。
「お前達も外へ出なさい」
「クリストファー殿下、我々近衛は王族をお守りするためのものです。お側を離れる訳には参りません」
「お前達がいると、話が出来ない。外へ出なさい」
またしてもクリストファー王子は威圧的な声を出した。
「ですが……」
近衛は食い下がろうとしたが、クリストファー王子の眼光の鋭さに、出ていかざるを得なかった。
バタン
扉が閉まると、部屋には私とクリストファー王子だけになったので、私はさっとひざまづいた。