着替え
一週間なんてあっという間。クリストファー王子が軍隊の視察に来る日になった。皆朝からそわそわと落ち着きがない。そして朝礼の時間。になる前にラッセがいない。私一人では朝礼へ行くことは出来ない。ただの付き人だからだ。私は部屋で短剣を磨いていた。
バタン
「あ、ラッセ……」
私は振り向きながら声をかけたつもりだった。が、ラッセを見て唖然として声が出なくなった。ラッセは正装をしていた。洗いざらしではない綺麗なシャツ、ズボン、そして長いマントに膝までのブーツ。いつものラッセとは違い過ぎた。私はぽかんとラッセを眺めた。
「アンリ、これを着ろ」
ラッセが私のベッドに放り投げたのは、綺麗なシャツにズボン、ブーツだった。またしてもぽかんとする私。
「時間がない。さっさとしろ」
「ラ、ラッセ……」
私は声が出てこなかった。
「早く着替えろ」
この事態についていけない私はまたもぽかんとしたままだった。
「仕方ないな」
ラッセはため息をつくと、私の服を脱がそうとした。
まずい!
「き、着替えればいいんですよね!」
私は叫んだ。と同時にラッセを追い出そうとした。
「外に出ててください!」
「何でだ?」
「だ、だから」
「早くしろ。ああ、その汚い被り物は外せ」
ラッセは言葉と同時に私の頭に手をかけた。
サラリ
私の銀髪がサラサラと零れ落ちた。
「お前……。だから布切れを被っていたのか。そんな髪の毛じゃあ変なやつらに狙われるからな」
え? え? 女だってバレてない?
「とにかく着替えろ。俺は扉の前にいる」
「は、はい」
私は釈然としないものを感じながらも急いで着替えた。シルクのような肌触りの上質なシャツだ。ラッセは一体……。
バタン
「着替えは終わったようだな。後はその髪の毛だ。男で伸ばしてるやつもいるが、これからのことを考えると隠しておいた方がいいかもな。お前髪の毛を結わえるのか?」
「出来ます」
私は急いで髪の毛を編み込んだ。
「ほう、見事だな。あとはこれを巻いておけ」
ラッセが差し出したのはシャツと同じような上質な布だった。私はターバンのように巻いて、端を左側に少し落とした。
「お前センスがいいな。それで大丈夫だろう。行くぞ」
「え?どこへ?」
「今日は王族がいらっしゃるのを忘れているのか?」
げっ、この格好で王族の前へ!? 目立つじゃない! クリストファー王子にバレるかもしれない!
「わ、私は留守番を……」
「付き人のいない将校などいない。お前も来るんだ」
将校!? ラッセは士官じゃなかったの!? だってこの宿舎は士官のものだわ。私が悩む暇もなく、ラッセは私の腕を引っぱった。
「ひ、一人で歩けます!」
「上等。なら着いてこい」
「はい」
ここは覚悟を決めなければいけないわ。何だかわからないけどラッセに着いていくしかないようね。