個人練習
軍隊に入隊して三日が経った。今の所、私が女だということはバレていない、と思いたい。
まずラッセが起きる前には着替えを済ませ、お風呂代わりに水で体を拭くのは夜、皆が寝静まってから。それでなんとかなっている。
四日目の朝、いつもの朝礼へ向かった。隊員が鍛練をする広い場所で朝礼は行われる。今日は上司から大切な話があるという。皆普段よりも姿勢を正している。
「今日は重大な話がある。一週間後に王族が軍隊の視察へいらっしゃることになった」
ざわり
さすがに王族という言葉に皆が反応する。
「静粛に! 今回は第二王子であるクリストファー殿下がお越しになる。失礼のないように。主に訓練をご覧になる。皆気を抜かないように」
今日の朝礼はこれで終わりのようだった。
それにしても、クリストファー王子!? 顔を知られてるからまずいわ。でも訓練よね。私は普通の訓練には参加しないから平気よね。
クリストファー王子か……。兄のエサイアス王子は俺様だけど、クリストファー王子は大人しいというか穏やかな方ね。子供の頃はよく遊んだけど、その頃から控えめだったわ。私よりも年下ってこともあるかもしれないけど。あ~あ、憂鬱。
ラッセは最初の約束通りに、私に長剣を教えてくれていた。隊員たちの鍛練の後にわざわざだ。私は不思議に思った。付き人がいる人もいない人もいるが、付き人にここまで訓練をしてくれる人はいない。ラッセは隊員たちの訓練場で訓練をしてくれる。
キィン
私の長剣が床に転がった。私の息も上がっている。
「今日はここまでだな。大分形になってきたな。お前覚えがいいな。教えがいがある」
素直な称賛に私は嬉しくなった。
「ありがとうございます。でもまだまだです。これからもご指導よろしくお願いいたします」
「まあ、鍛練はまだ続くからな。覚悟しておけよ」
「はい!」
もっと強くなれる! 一人前の戦士になるんだから!
「ところでお前、腕につけてるだろ」
ドキン ナイフのことがバレた?
「……つけてるとは……?」
私は恐る恐る聞いた。
「別に隠さなくてもいいだろ。ナイフだ。お前得意なのか?」
やっぱりバレてたか。
「……一通りは扱えます」
「なるほどな。お前って本当に飽きないな」
ラッセはそう言うと笑った。
「俺は頼もしい同士を見つけたのかもな」
あ、同士が欲しいって言ってたっけ。
「どうしてそんなに同士が欲しいのですか?」
私は疑問を口にした。するとラッセは厳しい表情になった。
「……裏切りがあるからさ。だがお前はよくはわからないが、そんなことはしそうにないからな」
ラッセは嬉しそうに笑った。過去に何かあったのね。軍隊では裏切りもよくあることなのかしら。隣国と繋がっていたり……? そういえば隣国のイングベルグは最近不穏だと聞いてるわ。戦争なんて起きないで欲しいけど、軍隊は最前線へ行くためのもの。それを理解してないといけないわ。