回顧
軍隊か……。大勢での戦闘訓練も懐かしいわ。暗殺集団に属していた時も皆で訓練したわね……。日本では死んでしまったけど、真実やフレディはどうしたかしら。エドガーとのたった一人の息子、真実。もう成人したとはいえ、私にとってはエドガーの忘れ形見。もっと一緒にいたかった……。それにフレディ。真実を見守ってくれた人。私のことも。貴方がいたから、私も真実も生きて来られたんだわ。
テロリスト集団は壊滅したはずだけど、その後どうなったかしら。三人で頑張ったわ。きっとエドガーも見ててくれたと思いたい。
私はテロリストの一人の自爆に巻き込まれて死んだけど、二人には生きて欲しい。私の分まで。私の我が儘だってわかってるけど。それにしても、死んだらエドガーの所へ行けると思っていたのに……。現実は厳しいわね。きっとエドガーは天国ね。それとも生まれ変わったのかしら。それなら会いたいけど、そんな都合のいいことなんてあるわけないわね。
「アンリ」
ラッセに呼ばれて、はっとした。
「はい、何でしょう」
「ぼけっとするな。ここが俺の部屋だ」
ラッセはそう言うと、部屋の扉を開けてくれた。部屋は八畳くらい? 両端にベッドが一台ずつ置いてある。その前には物置のような扉が閉まる箱が置いてあった。私は恐る恐る部屋の中へ入った。
意外と綺麗な室内だ。臭くもない。私がキョロキョロしてると、ラッセが私の頭を軽く叩いた。
「お前のベッドは右だ」
「わかりました」
私はとりあえず荷物を物置きに置いた。荷物といっても、少し薄汚れた感じの着替えが二着と武器だ。長剣、短剣、ナイフ。ナイフは常に身に付けている。腕に巻いてナイフを刺しておける袋のようなものを作ったのだ。
「アンリ」
「はい」
「お前、その頭に被ってる布切れは何だ?」
「え? こ、これは頭を防御するために……」
「ふーん、お前って変なやつ」
何も言えないわ。確かに怪しいわよね。
「それにその顔。洗ってこい」
ラッセは私に向かってタオルを投げた。
「あ、洗うって……」
「薄汚れてるだろ。スラム街なら仕方ないが、ここは軍隊だ。身なりも多少はきちんとしなきゃならねえんだよ。ほら、行ってこい。宿舎の裏手に水道がある」
ヤバい。顔を洗ったら、女顔だってバレるし、肌が白すぎる。
「早く行け!」
「は、はい!」
私はラッセの勢いにおされ、水道の所へやって来た。どうするべきか。でもずっと薄汚れたままではいられないわ。ええい、女は度胸! 私は水道でバシャバシャと顔を洗った。
は~スッキリ。やっぱり綺麗なのは気持ちいいわね。さて、ラッセはどう反応するかしら。
「洗ってきました」
私が部屋の扉を開けてラッセに伝えると、ラッセは眠そうにベッドから起き上がった。と、私を凝視している。
バレた?
ヒュー
ラッセはからかうように口笛を吹くと、口を開いた。
「お前、美人だな。軍隊は男だけだから変な輩もいる。何かあったら俺に言えよ」
「あ、ありがとうございます」
意外にもラッセは優しかった。
バレなくて良かった。でもこれからの生活に気を付けないといけないわね。