入隊
さて、旅(入隊)の仕度は調ったわ。
「アンジェリア、本当に行くのかい?」
「お父様、市井を見るのも大事なことですわ。身軽な今のうちに見ておきたいのです」
「あなた、アンジェリアの言う通り大事なことよ。」
「むう……。アンジェリア、とにかく気を付けるんだぞ」
「わかってますわ。お父様」
私は心の中でお父様に謝ると、屋敷を出発した。まずはクリスチャンの宿へ。
「お嬢、俺はここにいるが、王都も見たいからな。留守にしてることも多い。だから鍵を渡しておく」
「わかったわ。ありがとう。クリスチャン」
さて、軍隊の詰所へ行かなくては。
「あの、ラッセさんはいますか」
「おう! お前ラッセに勝ったやつだな」
え、もしかしてあのときの長剣でのことかしら。軍隊に知れ渡っている……?
「あ、あの、勝ったっていうか、あれはまぐれで」
「まぐれで勝てるほど、俺は甘くないぜ」
いつの間にかラッセが私の後ろにいた。
しまった! 後ろを取られるとは!
私は即座に飛び退いた。
「……お前、戦闘が身に付いているようだな」
ヤバい。疑われてる?
「いえ、あの……。普段から気を付けるようにと両親から言われてて……」
「ああ、お前スラム街出身か。それなら仕方ないな」
なんだかまた勝手に納得されたわ。スラム街はそんなに危険なのかしら。一度は行かないといけないわね。この王都でも闇の部分は見ておきたいわ。
「ところで、お前通いって言ってなかったか?」
「あの、入隊するからには、住み込みが原則と聞いています。だから住み込みます」
「両親は平気なのか?」
そっか。病気ってことになってるんだったわ。
「大丈夫です。行ってこいと」
「そうか。いい両親だな。それならまずは荷物を置いてこい。ああ、部屋は俺と一緒だからな」
なぬ!? 部屋が一緒!? すぐに女だってバレちゃうじゃない!
「あの、一人部屋って……」
「お前なあ、付き人だぞ? 俺の側にいるのが普通なんだ。それに付き人で一人部屋なんてあるわけないだろ」
「そうですね……」
ああ、バレて追い出されるのも時間の問題か……。
「なんだ、その顔。俺はお前を襲ったりしないから安心しろ」
ラッセはそう言うと、私の頭をぽんぽんと叩いた。
とにかく着替えには気を付けないといけないわね。あとはお風呂か……。あまり考えてなかったけど、結構まずい生活かもしれないわ。ああ、どうか無事に軍隊にいられますように!