審査
私は長剣を腰に括り着けると、それを持って軍隊の詰所へと行った。
「こんにちは。さきほど貼り紙を見て長剣を持ってきたんですが……」
「ああ、お前か。ラッセを呼んでこい」
ラッセ……? それが依頼者の名前? 貼り紙に書いてあったかもしれないけど覚えてないわ。
ほどなく男がやって来た。十代後半くらいだろうか。鼻筋もすっと通り、瞳はグレー。髪は黒髪。結構イケメンの部類に入ると思う。
と、その男は突然腰に下げていた長剣を抜いた。そして、私に向けて降り下ろした。私はさっと体を捻ってかわした。
何? 突然。でも戦わなければいけない、と頭ではなく体が悟った。私はすぐに戦闘体制になった。相手の長剣をひらりとかわす。
「長剣を抜け!」
私は言われるがままに長剣を抜いた。すると先程よりも鋭い動きで長剣を繰り出してくる。私は長剣を使ったことはない。強いて言うなら剣道だ。私は剣道の要領で長剣をかわした。
カン カン キン
静寂な中、剣の音だけが響く。
負けるものか! 私の中で戦闘意識が高まった。
キィン
男は剣を取り落とした。私は拾わせないように自分の剣を男の喉元に突きつけた。
ざわり
私はそこで初めて男に勝ってしまったと気づいた。しまった! こんな小娘、じゃない、子供のような少年に負けるなんて屈辱だろう。これは雇ってもらえないわ。私は剣を下ろした。
「あ、あの」
わっ!
周りから拍手喝采があがった。
え?
「あははは! お前やるな。俺の付き人として合格だ。俺はラッセ。お前は?」
「ア」
しまった! 名前を考えてなかった!
「ア?」
「ア、アンリです」
「アンリか。よろしくな」
「はい! よろしくお願いします!」
どうやら合格したようだ。でもラッセは弱い訳ではなかった。では何故私と模擬試合をしたのかしら。
「不思議に思ってるようだな。俺は単なる付き人はいらない。自分のことは自分で出来るからな。それよりも一緒に戦える同士が欲しかったのさ」
なるほど。そういうことね。
「俺は合格?」
「ああ、見事だった。だが長剣に慣れてないな。これから俺が特訓してやる」
「本当ですか!? よろしくお願いします!」
これで長剣を習える! 益々戦士に近づけるわ。
「あ、あの、通いでもいいですか?」
さすがに泊まり込みは無理だ。屋敷の皆にバレる。
「通い? 何かあるのか?」
「その、両親が……」
どうしよう。何て言えば……。
「ああ、病気か。なら通いでも構わないぜ」
「ありがとうございます」
勘違いされたけど、まあいいわ。
「じゃあ明日からな」
「はい!」
私は意気揚々と帰っていった。良かったわ。でも毎日抜け出すのも大変ね。どうにかならないかしら。