実技
とりあえず家庭教師のことはクリスチャンへは知らせないとね。これからの鍛練に影響するもの。
「ナタリー。クリスチャンはどこかしら。客室にいる?」
「いえ、それがさきほどお出かけになられたそうです」
「そう。わかったわ」
どうしようかしら。王妃教育は週に三回で済むことになったけど、魔法の教育は毎日なのよね。ギルデン先生は少しでも早く終わらせたいらしいから。とりあえず今日もギルデン先生がいらっしゃるわ。今日は実技! 楽しみだわ。
「お嬢様、ギルデン先生がお着きになられました」
「お通しして」
「ギルデン先生、おはようございます」
「ああ、おはよう。昨日の講義の内容は覚えているか?」
「もちろんですわ」
「ならいい。まずは部屋の中でも大丈夫なくらいのことをしよう。火の玉を作るのだ」
火の玉! 早速攻撃出来るわ!
「手のひらを上に向けるんだ。そしてイメージする。魔法で大事なのは明確なイメージだ」
ギルデン先生はそう言うと自分の手のひらに小さな炎を出した。
「このくらいの炎だ。念じてみろ」
私は炎をイメージして手のひらに出そうとした。が、出なかった。おかしいわ。こんなにはっきりイメージしてるのに。
「イメージが足りんな。それが出来るまで練習だ」
ぽんっ
先生に言われてすぐに私の手のひらに炎が出た。しかしギルデン先生のよりもかなり小さい。大体ピンポン玉くらいだろうか。
「小さいが、まあ出来たようだな。もう少し大きくしてみろ。膨らますイメージだ」
私はピンポン玉が野球ボールくらいになるよう念じた。しかし炎は消えてしまった。
「きちんと念じたか?」
「もちろんですわ」
「この程度でつまずくとは……。今日はわしは帰る。明日までにもう少し炎を大きくしておけ」
ええ~! 今日はこれだけ!?
ギルデン先生はそう言うと帰っていった。
とにかく炎を大きくしなくては!私は必死に繰り返し炎を出した。しかしピンポン玉からの進歩はない。
どうして~?
「お嬢様、少し休まれてはいかがですか? もうお昼ですわ」
私はいつの間にか脂汗をかいていた。もうお昼?全く進歩しないのに……。イライラするわね。
「お嬢様、クリスチャン様がお戻りになられたようです」
「そう。それならクリスチャンと昼食をとるわ」
「お嬢、魔法の練習はどうだ?」
「まだまだね。クリスチャン、今日の予定は? あとで散歩に付き合って欲しいの」
「ああ、いいぜ」
私達は昼食を終えると、いつもの場所へと行った。鍛練をするためだ。私は着替えるとナイフ投げに没頭した。
「……お嬢、どうしたんだ?今日は変だぞ」
「クリスチャン、魔法で炎を出すのって簡単なの?」
「ああ、初歩の初歩だな」
やっぱり。私はおかしいのかしら。
「上手くいかなくて荒れてるのか」
「まあそうね」
「魔法は難しいからなあ。教師がいるんだろ?」
「……そうなんだけど、炎が大きくならないの」
「それは俺にもわからねえな」
私は体を動かして気分も晴れやかになった。あとはまた魔法の練習ね。