練習
さて、ナイフも手に入ったことだし、次は練習ね。どこで……と考えるまでもなく、公爵家の敷地だ。さすがは公爵家。屋敷の裏手には、森のような場所がある。そこなら、見られることもなく練習が出来るだろう。
そして皆が寝静まった頃、私はベッドから起き出して、ナイフに細工を施した。
翌朝。
「ナタリー、屋敷の裏手を散歩してくるわ」
「かしこまりました。お付きは私とミランでよろしいですか?」
「……散歩するだけだから、側仕えは必要ないわ」
「お嬢様!」
「ナタリー、俺が一緒に行くよ」
「クリスチャン様……」
「俺が一緒なら平気だろ?」
「そうよ。ナタリー。クリスチャンなら世界中を旅してるんだもの。平気でしょ」
「……かしこまりました」
やれやれ、これだから公爵令嬢だなんて不便だわ。
「クリスチャン、ありがとう。助かったわ。ナイフ投げの練習に行くのに、ついてこられたら困るもの」
「まあ、そうだろうな」
私とクリスチャンは、森の奥へと入っていった。少し拓けた場所に出たので、そこを練習場所にすることにした。
まずは的になる木だ。男性の心臓あたりにくるように、木に丸をつける。そこをめがけて投げるためだ。まずは五メートルほど離れて投げてみた。投げ方が弱かったのか、木に刺さりもしない。私はもう少し強めに投げてみた。刺さることは刺さったが、的からは大分離れている。
これはかなり練習が必要だ。
「お嬢、ナイフを投げるのはいいが、投げたあとは武器が減るんじゃないか?」
「ああ、それはね、こうするのよ」
私は細い紐を引っ張った。ナイフの柄の部分に細工をして取り付けたものだ。紐を引っ張ると、見事に私の手に納まった。
「どう?」
「へえ、これで武器は減らないって訳か。でも絡んだらどうするんだい?」
「そうしたらナイフで紐を切るわ」
「武器が減るぜ」
「仕方ないわね。その代わり、ナイフよりも少し大きめの短刀を使うわ」
「短刀?どうやって手に入れたんだ?」
「ふふ、兄様の部屋に置いてあったの」
そう。次男のコンラッド兄様の部屋には、騎士らしく武器がいくつかあったのだ。私はそれらを拝借して、磨いていたのである。
「短刀はどうやって使うんだ?」
「こればかりは相手がいないとねえ……」
私はクリスチャンを見つめた。
「わかったよ!乗りかかった舟だ。相手になってやるよ」
「クリスチャンなら、そう言ってくれると思ってたわ!ありがとう!」
「俺はスパルタだからな。ついてこられないようなら、そこで終了だ」
クリスチャンは瞳をギラリと光らせた。これは脅しでもなんでもない。戦士の顔をしたクリスチャンだった。
私も負けるわけにはいかない。食らいついていかねば!
「クリスチャン、私は本気よ。私を鍛えてちょうだい」
「いい瞳だ。お嬢、これから特訓は、あの服を着るんだ。ドレスが汚れ過ぎるとヤバいだろ」
こうしてクリスチャンの特訓は始まった。私のナイフ投げも順調に上達していった。