第六話 Two protagonists
俺は今、琴柄凪という死人側の人間と行動を共にしている。
何で仲間になりたかったのかは、俺にもよく分からないが。
首謀者を倒せば、この変態女も成仏するだろう。
「次の敵は、斉藤基クン。キミ達の敵ではあるけど、もう一人の主人公・・・・・・。簡単に勝てると思わない方がいいよ」
コイツの言う主人公という言葉の意味は未だ分からない。
歩いて行くと、敵が現れた。
今度は不意打ち無しで。
男だ。身長は、百八十五センチくらいはあるだろうか。白いYシャツに黒いネクタイに、黒いズボンという平凡そうな見た目だが、腰に吊した長剣が彼を普通の人間で無いことを物語っている。
目付きは鋭く、少々エラの張った顔つき。
「貴様が、侵入者か。
他の仲間などどうでもいいが、俺に勝てるのか?
そして琴柄、裏切った以上は貴様も殺す」
「斉藤クン、キミなら分かる筈だよ。
ボクの幸運がある限り、キミはボクを殺せない。
キミはゲーム以外に特に上げるべき才能が無いアサミさんに負けているわけだし。
そんなキミが、龍夜クンに勝てるのかい?」
「俺を甘く見るな」
そう言うと、斉藤の体に変化が起きた。
黒くツンツンした髪は赤く染まり。
黄色の瞳は白に。白目が黒く染まる。
ワイシャツとズボンの色や長剣の色が反転した。
――何が、起きたんだ!?
「あれは彼の意思が、外見に反映された結果だよ。
殺意だね。
彼自身は能力を持たないから、キミが有利だと思って構わないよ。
ただし、彼は戦闘の素人に見えてそうじゃないけどね」
心して戦わないと。
俺は拳を握る。
斉藤も片手剣を取る。
そのまま駆け出した。
しかし斉藤の速さは、確かに他の死人を凌駕した。
瞬間移動並みの速さ。
俺のよく見える目にも止まらず、俺のよく動けるチカラでも追いつけない。
前世が人間とは思えない。
そしてそのまま剣が横に薙ぎ払われ、刀身は俺の腹に傷を付けた。
剣を切り払う斉藤。
「この程度か。
少し期待していたが見当違いだったらしい」
まだだ。
俺はまだ戦えるッ!
「残念だが、お前に勝機は無い。
何故なら」
斉藤はパチン、と指を鳴らす。
すると、そこに現れたのは。
「ナオ! 雅樹!」
俺の友人のナオと雅樹。
「分かってると思うけど、彼らは洗脳されているから、性格が似ててもキミの事は覚えていないよ?」
琴柄の発言で、緊張感を取り戻し。
拳を握る。
「三対一か。しかも俺の友人を使うとか卑怯だな、斉藤!」
「俺は勝つ為なら何でもやる。
例え人から残酷と言われても、非道と言われても、俺は勝つ為に何でもやる。
行け」
ナオと雅樹が疾風の如く駆け出す。
俺はナオに拳を叩きつける。
それは、見事に防御された。
「無駄だ。お前は甘い。
仲間を守ろうなどと考えない方がいいぞ」
雅樹の業火も凄まじく、三年生のクラスがほぼ焼けていた。
「どうしちゃったんだよ! お前ら!」
「俺はあの方が望むことをやっているだけだよ、歩」
ナオの声は冷たく枯れている。
「そうだぞ。歩。俺達の所に来い」
雅樹の声も、いつもとどこか違う。
「仕方ないね。ボクも龍夜クンの仲間になった以上は協力したいし、力を貸すよ」
琴柄が拳銃を取り出す。
「待てよ琴柄! お前まさかナオ達を」
「殺すよ?」
!!
「斉藤クンも言ってたでしょ。虎賀クン達が友達なのは分かるけど、ここで殺さないで放置したら奴らの思うつぼだよ?」
「ふざけるな! やめろよ!」
その言葉も聞かず、琴柄の拳銃は発砲された。
幸運の力で、ナオの心臓目掛けて一直線に飛んでいく。
「ナオォォォォォ!」
俺は叫びながら、ナオの前に立ちふさがる。
そして拳に銃弾が貫通した。
「あ、ゆむ?」
意識が戻ったのか、ナオが呟く。
「ナオ! お前は早く逃げろ。
ここは俺一人でやる!
琴柄! お前よくも騙したな!」
「騙してないよ。ボクは希望の為に
「黙れ!!」
「キミがそう言うなら仕方ないかもね。
だったら、ここでボクを殺せばいい」
「歩、お前はこんな状況でも、俺に逃げろと言えるかい?」
本当は逃げてほしい。だけど。
「俺だって歩には死んで欲しくないぜ。
お前が戦うなら、俺はサポートする」
「ナオ。ありがとな」
「俺は斉藤と琴柄を倒すから。
お前は雅樹を正気に戻してくれ」
「分かった!」
俺は琴柄に向かって飛び出した。
松田から奪ったナイフを隠し、気付かれないように突進する。
「幸運は俺が打ち破る!」
ナイフを琴柄の心臓に突き刺す。
やっと分かったのだ。琴柄の幸運は一度使用すると、一定時間使えなくなるようになるということに。
「あれ? ボクの運も尽きたかな・・・・・・」
琴柄はそのまま倒れて、消えた。
斉藤を倒す!
「ふああああああああ!」
雅樹の業火。それを防ぐナオ。
俺はそのままナイフを、斉藤の胸に突き立てる。
斉藤は最後の力を振り絞って俺の足に切っ先を刺した。
「なん、だと」
そのまま斉藤は消え、ナオの方もどうやら片づいたようだ。
「雅樹ッ!」
松野心夜です! やっと汝は裏切り者なりや?側の主人公出ました!
えー、斉藤を倒した所で終わりましたが、どうだったでしょうか。
次回も頑張ります! これが終わったら、松野のみで新シリーズを書きたいと思いますので、
お楽しみに!