表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

そもそもフィードバックが少ない。

 俺はゲームが好きだ。

 敵を踏んで倒すゲームも好きだし、敵を食べるゲームも好きだし、謎を解いた時に軽快な効果音が鳴り響くゲームも好きだ。

 足を忙しく動かすゲームも好きだし、音を歪ませるゲームも好きだし、本に従ってダイスを転がすゲームも好きだし、粘土をこねるゲームも好きだ。

 画面全体を即死する弾が覆い隠しているようなゲームも好きだし、理不尽に即死させてくるゲームも好きだし、操作が数フレームずれただけで負けるゲームも好きだ。

 そんなゲーム愛好家フリークな俺でもどうしても好きになれないゲームが1つだけある。

 そのゲームは全人類が強制的に参加させられている。最高の物理装置デバイスと最低の社会構造デザインを持つゲーム、人生である。

 まず第一に、強制するゲームは面白くない。自分がやりたいと思った時にプレイするからこそ面白い。俺はクエストを受注するのも好きだし、難易度を選択するのも好きだし、ラスボスを倒す前に世界中を巡るのも好きだ。

 次に、失敗に寛容ではない。ゲームは失敗できるからこそ楽しい。俺はボスの前でセーブできるゲームも好きだし、リトライが早いゲームも好きだし、復活リスポーンできるゲームも好きだ。

 更に、フィードバックが適切でない。ゲームは何が原因で成功や失敗をしたのか教えてくれる。俺はダメージが表示されるゲームも好きだし、女の子とどれだけ仲良くなれたのか表示されるゲームも好きだし、どの武器やスキルによって殺されたのか表示されるゲームも好きだ。

 実際問題、人生のフィードバックが適切であれば俺は現在こんなにも困っていない。

 コーヒーを飲み、何度見たか分からない店内の時計を見る。窓越しの町並みを見て心を落ち着かせ、テーブルの反対側にいる少女に話しかける。

「わざわざ知り合いでも無い人を呼び出したんだからなにか相談があったんだよね?できる限り協力するから教えてもらっても良いかな?」

「・・・」

 コーヒーを飲む。この胃がキリキリするのは女の子の前だからと強がって濃い目のコーヒーを飲んでいるからだろうか。

「君の名前を教えてもらっても良いかな?」

星加琴乃ほしかことの

「今日は何曜日?」

「・・・」

「今日は暑いねえ」

「・・・」

 コーヒーを飲む。口の中が乾いて頻繁に体が水分を欲してしまうのは久しぶりに女の子と会話しているからだろうか。

「ゲームは好き?」

「好き。」

「どんなゲームが良いの?」

「・・・」

「俺はアクションゲームとかをよくやっているよ」

「・・・」

 コーヒーを飲む。ここまでの濃厚なコミュニケーションの結果得られた事を一度整理しよう。まず彼女は喋らない。そして彼女が喋るのは2つの質問についてのみ。

「名前は?」

「星加琴乃」

「俺はゲームが大好き過ぎて、もう俺がゲームだと思うんだよね。今後は自分の事をゲームと名乗るとしよう」

「・・・」

「ゲームの事好き?」

「好き」

 こんなにも喜びを感じない告白は初めてかもしれない。嫌いと言ってくれた方がまだ新しい発見があった。とりあえず、彼女の中ではある一定の返答法則があるらしい。となると、今まで言ってなかった会話パターンに挑戦するしかない。ちょっと楽しくなってきた。

「俺の名前は?」

「・・・」

「君の親の名前は?」

「・・・」

「君の親の子供の名前は?」

「星加琴乃」

 今ちょっと答えるまでに間があったな。この質問には考える余地があったのか。

「俺もゲーム好き?」

「好き」

 俺がゲーム好きだという事がバレていた。なかなかやるな。

「ゲームよりも特殊相対性理論の方が好き?」

「好き」

 結構判定は甘いらしい。博学だ。

「君の好きなゲームを教えてくれるかな?」

「ライフゲーム」

 お、ついに新しいパターンを発見してしまった。しかし、ライフゲームとはまた渋いな。

「ライフゲームって何?」

「・・・」

「ライフゲームってどうやるの?」

 その質問をすると彼女はカバンをゴソゴソとし、スマートフォンを俺に渡してきた。

「な、なんだ?中見ても良いのか?」

「・・・」

 返答は無かったが渡されたからには隅から隅まで見るのが礼儀ってものなので、さっそく電源を入れてみる。トップ画面にはライフゲームと書かれたヒットポイントの最大値が上昇しそうなアイコンのアプリケーションがポツンと置いているだけだった。普通のスマートフォンなら初めから入っているアプリケーションがいくつかあるはずなので、改造かなにかだろうか。良い所のお嬢さんかと思ったら、とんだやんちゃガールだぜ。

「アプリ起動するぞ?」

「・・・」

 俺はアプリをタッチした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ