噂話は蜜の味[連載・SF]
噂って知る人が増えるほど、大きくなって。そのうち…… とっても美味しいご馳走になるんだよ?
〜〜〜おモグラさん〜〜〜
「おモグラさん?」
「そうそう! ほら、うちの学校の近くの住宅街あるじゃん。 そこに何箇所かマンホールがあるわけ。 それで、そこを三回ノックして当たりなら…… おモグラさんが願いを叶えてくれるらしいよ!」
友人がとても楽しそうに話を続ける。 それを私は、正直あまり興味を持てずに聞いていた。 そもそも……… おモグラさん? モグラなの? だとしたら、なんでモグラが願いを叶えるのさ。 都市伝説とか噂話はいちいち胡散臭くて好きじゃない。
「ごめん、トイレ行ってくるね」
聞いてるのもだんだん疲れたので、私はその場から逃げた。
♦︎♦︎♦︎
「おモグラさん、ねぇ……」
「近藤さん」
「ひぇ! あ…… 小野くん」
ボケーっとしていた私に声をかけてきた。 …… イケメンだなぁ。 小野くんとは今年から同じクラスになった。 私はただ今絶賛片想い中である。 好きになった理由は…… ズバリ顔。
「どうしたの? ぼーっとしてたみたいだけど?」
「……あのね、実は」
私は小野くんと会話がしたいと思って、信じてもいないおモグラさんの話をしてみた。
「願いを叶える、おモグラさん?」
「そう。 ……ま、まぁ私も信じてないんだけどね!」
「……ふふ。 学生って、噂とか都市伝説とか、好きだよね」
そう言って、小野くんは笑った。 ……同い年なのにどこか大人っぽいんだよね。 そこがまた良いんだけど。
「でも……本当に、願いが叶うなら僕も会ってみたいな」
「へぇ〜、小野くんてそういうの信じない人だと思ってた」
「そんなことないよ。 むしろ、好きな方だよ」
いつもクールだから、そういうのには興味を持ってないのかと。 …… 小野くん、何をお願いするのかなぁ………
「近藤さん」
「え、あ、なになに?」
「そのおモグラさんの噂って…… それで全部?」
「う、うん。でも私が聞いた部分だけだから、他にもあるのかもね」
「……へぇ、そうなんだ」
なんだろ? 何か、気になることでもあるのかな? なんだか一瞬…… 小野くんが、とっても楽しそうな顔をした気がした。
♦︎♦︎♦︎
「……で。なんで、来ちゃうかなぁ」
時刻は夜の9時。 私は学校近くの住宅街へと来ていた。 目的は一つ、おモグラさんに会うため。 だってもし会ったら…… 小野くんとまた話せるかもしれないし。
「よーし、頑張るぞ!」
私は気合を入れて、マンホールを探し始めた。
「……うーん、これも違うのかなぁ?」
何箇所かマンホールを見つけ、それを足で三回鳴らしてみたけれど…… 特に何も起こらなかった。 やっぱり噂は噂なのか。 半分諦めながら、再び見つけたマンホールを足でトン、トン、トン、と踏んだ。
……コン。
「………へ?」
気のせい? 今、なんか音がしたような。 私はもう一度足でノックをした。
トン、トン、トン。
……コン、コン。
…やっぱり。 このマンホールの下から、音がした。 もしかして、本当に…… おモグラさん? だったら……
「……っ! わ、私が好きな人と、付き合えるようにして!」
夜だとか、住宅街だとか。 そんなん忘れて、私は大声でそう叫んだ。
コン、コン…… ボコ。
瞬間、マンホールの真ん中当たりが鈍い音と共に盛り上がった。 ……え? おモグラさん、頭ぶつけた? え、てか出て来てくれるの? もしかして、土地神とかいうやつなのかな? え、私もしかして今すごい瞬間を目撃するんじゃ………
コン、コン……… ガシャ。
「………え?」
マンホールの蓋が外れた。 その下の真っ暗な穴から出てきたのは………
ポタ…… ポタ…… ポタ……
大きな花。 大きく花びらを開いて、痛そうな棘がいっぱいついている。 それは私を包み込みーーーー
グシャッ。 ……グチュ、ゴリッ、ゴリッ、グシュ。
【オ イ シ イ】
「なるほど、これがおモグラさんの真実か」
ポタ、ポタ、ポタ。
「なるほど、普段は口を閉じて地下をさまよってるのか。 口を開いたら穴に入れないもんね。 しかし君は…… モグラには見えないねぇ。 口を閉じたらただの黒い物体。 でも……… 」
グアアアアア!!
開いた口は可憐な花のようだ。
「……なんて、言うと思う?」
少年は手に持ったナイフを前に突き付けた。花びらのような口の中心、そこにある一つの目玉に向けて。
「目玉を中心に咲く花なんて、グロテスクだよ。 いいかい、おモグラさん? はた迷惑な話だが、君は人間どもに噂されている。 願いを叶える存在と言った風にね。 だから………」
【オ ワ ラ セ テ ア ゲ ル ヨ?】
少年は目玉に向けてナイフを刺した。
ギュアアエアアイア‼︎‼︎
「ははっ、何語ですか? でも良かった、痛みが分かって。 …君が食べた子はね、一応知り合いなんだ。 美味しかった? …その方が僕も嬉しいんだけどね、だって……」
【イ マ カ ラ キ ミ ヲ タ ベ ル カ ラ サ】
♦︎♦︎♦︎♦︎
「ごちそうさま。 …近藤さん、かわいそうに」
手を合わせ、その場を離れた。
「……ぶふ。 ふ、ふはっ。 あはは!」
か、可哀想とか。 何、心にもないこと言ってるんだろ、僕は。 彼女を餌にしたのに、可哀想なんてさ。 おめでたい頭してたから、可哀想とは思うけど。
「まぁおかげで、おモグラさんの噂を美味しく食べれたよ」
君たち人間が、噂を信じる限り。それは現実となる。 今回は近藤さんが疑いを捨てて本気で信じてくれたから、おモグラさんはあそこまで気色悪い化け物となり。 一層、僕を満たす美味な食事になれた。 そこだけは、感謝するよ。
「あ、おモグラさんの話。 しっかり変えとかないとな。 美味しかったけど、もう食べる気は無いし」
少年は携帯電話を取り出し、あるサイトにアクセスした。
[都市伝説、噂話の館]
噂の1.おモグラさん
○○県○○市○○○高校近くの住宅街にて。 マンホールを見つけたら注意すべし。 三回叩き、ノックがかえってくると…… おモグラさんの願いを叶えなければならない。
「……こんなもんかな? いやぁ、それにしても…… ほんと、人間って噂が好きだよなぁ」
そう言いながら、少年は口についていた血をペロリと舐めた。
噂の1.おモグラさん 完食