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永遠の檻[連載・ファンタジー]

僕らは望まぬまま、永遠を手に入れた。 永遠によって得たもの、それと同じくらい失ったもの。 それを取り戻すため、少年はこの檻から抜け出すことを決めた。


『今この瞬間、あなたたちは永遠を手に入れたのです』



その言葉と共に、僕の街は時を刻むことをやめた。





♦︎♦︎♦︎









ピピピ、ピピピ、ピピピ。



「…………」



携帯のアラームに、閉じていた目が反応する。 布団に包まったまま携帯に手を伸ばしアラームを止めた。


「……7時か」


携帯の画面で時刻を確認する。 もう起きなければならない。 もう少し寝ていたいけれど…… 起きないと面倒なのが来る。 そう思い、まだ眠たい身体を起こし部屋を出た。



相太そうた、おはよう」

「あ、お兄ちゃん! 今起こしに行こうかと思ってたのにぃ‼︎」

「……高校生だぞ。 朝くらい一人で起きるよ」

「とか言って、もう今月3回は葉月はづきが起こしに言ってるよね!」


別に頼んでないけどね。 それに起きてはいるんだ、ただ布団から出ないだけで。 お前が来なくても大丈夫なんだよ。 そう言ってやりたいが、泣かれたら面倒になるから抑えた。

妹に嫌われていないのは良いことなのかもしれないが、好かれるのもなかなか大変だと感じてる。 ブラコン、ってやつなんだろうけど。



「ふふ。 顔洗ってきなさい。 まだ眠たそうにしてるわよ」

「うん、そうする」

「葉月も行こうか⁉︎」

「お前はおとなしく学校へ行ってくれ」


僕の言葉に、不満げにほっぺを膨らませる。あいにくだが、僕はシスコンではないのでそれを見ても何も思わない。 めんどくさいことから逃げるように僕は洗面所へと向かった。









「行ってきまーす‼︎」


葉月の元気な声が聞こえたが、気にせずにパンを頬張る。 母さんは「気をつけてねー」と洗い物をしながら答えた。 変わらない、いつもの我が家の朝の風景だ。





『次のニュースです。 昨日の深夜、ゲート付近で不審な男が現れ、警察により身柄を確保されました。 男の証言によると、脱走を目的としていたと見られています』



「…………」

「あら、また出たのね。 最近多いわねぇ」

「……そうだね。 ごちそうさま。 今日も部活で遅くなると思うから」

「そう。 あんまり無理をしないでね?」

「……うん。行ってきます」



僕はそう言って、家を出た。








空を見上げて、舌打ちをした。 僕と空の間には、透明なガラスのようなものがある。 視線を前に戻して、胸の中に怒りがこみ上げる。 視線のずっとずっと先にそびえる、黒い壁。 さっきのニュースで言われていた『ゲート』と呼ばれる、この街を囲う壁だ。

おもむろに携帯を取り出した。 画面には7時30分の表示。


「…僕らになんの意味があるんだよ」


この街はもう、5年もの間。 時計の針が進まずにいるのに。






人は永遠を手にした。 とある研究チームがそう言ったらしい。 それはウイルスの類であり、生物に感染し……… 寄生するらしい。 寄生された生物からは老化現象がなくなる。 つまり、不老になるのだと言う。 誰もが初めは疑った、嘘だとその研究チームを罵ったらしい。

だから、実験をすることになった。ある一定のエリアを隔離して、そのウイルスをばら撒く。 そして、そのエリアに住む人たちがどうなるかを観察し、実例を出そうとした。



……あれから5年。 実例は、確かに出た。出てしまった。 僕は今年で20歳だ。 だが、高校生なのだ。 見た目が何も変わらない、身体能力も変化はない。 身長も、体重も、何も変化しない。 母さんも今年で47歳なのに、全く変わらない。 葉月も5年前と変わらず、子供っぽいままだ。

つまり、実験は成功したのだ。 人は、永遠を手にしたと言えるのだろう。




だけど…… 不老を手にしたことで、僕らは成長することを失った。

人は成長しなくなったら、どうなるのか。 今のままでいられることに喜ぶことも出来る。 でも僕は思うんだ。 ゲームのレベル上げ、もしそれが途中でストップされたら? あなたはこれ以上強くなれませんと言われたら?…… 大抵の人が、そのゲームをやめてしまうだろう。


この街が隔離されて5年経つ。 ニュースや新聞は、自殺者や脱走未遂者のものばかりだ。終わらせた人、抜け出そうとした人。 当然と言えば当然なんだ。 だってこの国は……




「この街の人全員の、未来を消したんだから」





明日なんて来ない。僕らは、時間が止まったあの日から一歩も進めていない。 今と言う丸い輪っかを永遠に歩いているのだ。 だから僕は、それに抗う。 絶対に、この永遠から逃げるんだ。








止まったままの針を、必ず動かしてみせる。そう決意して、僕は空を睨んだ。






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