たんじょうび
3月2日、深夜。
結花は、同じ大学の先輩で、一人暮らしをしている姫乃の家にいた。
同じく大学の先輩の紗織、京子と共に、今夜は4人でお泊まり会。
姫乃のおいしすぎる手料理をごちそうになって、順番にお風呂に入ってあったまったあと、リビングでくつろいでいる時に、ふと結花がこう言った。
結花「19歳って……どんな感じなのかなぁ?」
紗織「っぷ。なによーそのセリフ」
結花「ええー、だって実感が沸かないんだもん」
紗織「ふふふ。確かに結花が19って感じはしないな~」
結花「あー紗織ちゃんひどーい!」
京子「そういうリアクションとかが特にな」
結花「うぅ、京子先輩まで……」
姫乃「ダメよぉ紗織ちゃん、京子ちゃん。今日はせっかくおめでたい日なんだから」
京子「はいはい」
紗織「てへ。すいませーん」
結花「でもあたし自身も、19年も生きたっていう実感ないなぁ」
紗織「うーん、その気持ちは分かるなぁ。あたしも20歳って実感はあんまりないし」
姫乃「あららぁ。紗織ちゃんまで」
紗織「逆に、京子さんと姫乃さんは実感あります?」
姫乃「そう言われると……確かに無いかもしれないわねぇ」
京子「実感が有ろうが無かろうが事実は事実よ、今を精一杯生きるだけ」
結花「うわぁ、カッコいいなぁ」
紗織「京子さんはすっかり大人のオンナですね~」
姫乃「うふふ。京子ちゃんは現実的すぎるのよ」
結花「あたし、実感は沸かないんですけど、でも19歳は何か特別な気がするんです」
紗織「何かってなによ?」
結花「だって19歳っていったらもうほとんど大人でしょ?でも実際はまだ子どもで、未成年最後の一年じゃない?それってちょっと特別な感じしない?」
紗織「あー分かる分かる。あたしもなんでか分かんないけど、この一年は大切にしなきゃ。って思ったわ!」
結花「だよね!」
京子「んー、私は特になかったな。そういうのは」
姫乃「あらそう?私は少しあったわよぉ、特別感。一年後には大人の仲間入りなわけだし」
結花「そうですよね!なんかこの一年は、これまでみたいにのんびりしてちゃいけないような気がするんです」
京子「それは思い込みよ?18も19も特に変わらないわ」
結花「うぅ。京子先輩、冷たい……」
紗織「そーですよ!京子さん!結花はこれから19歳を頑張ろうって思ってるんです!特別にしたいって思ってるんですよ!」
京子「そう言われてもなぁ…」
紗織「京子さんも19歳の頃はもっと女の子だったはずです!その時の気持ちを思い出してください!」
京子「うーん。そうだな、19のときは何の感慨も無かったけど、今だから言えることはあるな」
姫乃「へぇ。どんな?」
京子「誕生日が楽しみなのは20歳まで、ってこと」
姫乃「あらあら」
紗織「うっ、なかなか痛いところを突いてきますね……」
結花「そうなの?紗織ちゃん」
紗織「そうよー。親とかからずっと言われてたけど、実際20歳超えてみて痛感したわ~」
姫乃「うふふ、結花ちゃんも1年後にはきっと分かるわぁ」
京子「21歳からは誕生日なんて悲しいだけさ」
紗織「あたしも再来月で21だけど、あんまり誕生日来て欲しくないもん!」
結花「そうなんだぁ…」
京子「まあ、そういう意味では、19歳ってのは特別かもな」
姫乃「そうねぇ。無条件で子どもでいられるのは今年が最後だもの」
紗織「そうですよねー。あたしも20歳になった時は、もちろん嬉しかったですけど、それと共にプレッシャーもあったっていうか…」
姫乃「そうそう。名実共に大人って言うのは、誇らしくもあるんだけど、どこか不安にもなるのよねぇ」
紗織「そうなんです!それこそ実感なんか沸きませんよね~」
京子「20歳になったその日から、何かパッと変わるわけでもしな」
紗織「ですねぇ。強いて言うなら、20歳の誕生日が、自分はもう大人なんだ。ってことを自覚させてくれるのかも」
京子「そうだね。子どもでいていいのはこれまでだ。っていうタイムリミット的な役割を果たしてるのかも」
結花「そうなんですねぇ…」
紗織「だからこそ、こうして結花の19歳をみんなで祝おうとしてるよの!」
結花「うん、ありがとう」
紗織「やっぱり誕生日は、みんなに祝ってもらった方がうれしいもんね!」
結花「…うんっ!」
京子「そうだな。誕生日は、祝ってくれる誰かと一緒にいたいよな」
紗織「あれあれー?京子さん、いがーい!」
京子「…なにがだよ」
紗織「京子さんって、誕生日なんか祝われても悲しくなるだけだ。とか言いそうなのにー」
姫乃「うふふ。想像つくわねぇ」
京子「言わないわよ!そんなこと!」
紗織「でもさっき、誕生日なんて悲しいだけ。って…」
京子「誕生日自体、はな…」
姫乃「だからこそよね?」
結花「どういうことですか?」
姫乃「20歳を超えちゃうと、誕生日って年を重ねるだけの日になっちゃうの」
京子「子どもの頃は、周りの人たちが自分の1年の成長を祝ってくれて、」
姫乃「自分も大きくなって、大人へと近づいていくことが嬉しくて楽しくて、」
京子「でも、いざ成人しちゃったら、そこからは大人になるっていう目標がなくなっちゃってて」
姫乃「今度は、日々オバサンに近づいているだ。ってことを痛感させられる日になるの」
結花「そんな…」
姫乃「だから、みんなが祝ってくれると嬉しいのよ」
結花「え…?」
京子「大人になれば誕生日は楽しいものじゃない。だからこそ、祝ってもらったら、子どものときよりも何倍もうれしいんだ」
姫乃「自分の一年間が、ただ老いるだけの日々じゃなかったって、思わせてくれるの」
紗織「そうなんだ…」
結花「あたし、先輩たちの誕生日、絶対に忘れません!」
紗織「だね!パーティもしましょう!」
京子「……ありがとう」
姫乃「その前に、紗織ちゃんのパーティが先かしら?」
紗織「あは、そうですね」
結花「でも、誕生日がそんな悲しい日になるなんて……、ちょっとショックです」
京子「ごめん結花。だけど事実なんだ。結花にもいずれ分かるよ」
姫乃「うふふ。でもね、結花ちゃん。イヤことばっかりじゃないのよ?」
結花「そうなんですか?」
京子「どんな良いことがあるってのよ?」
紗織「あたしも知りたいです!」
姫乃「それはね……思い出」
結花「思い出…?」
姫乃「楽しかったこととか、嬉しかったことがいっぱいあれば、その一年は、私にとっては大切な日々だったんだって思えるでしょう?」
紗織「たしかに!歳は取っちゃったけど、その分いっぱい幸せな気持ちになれたなら、別にいいか。って思えますね!」
姫乃「あとは……成長、かな」
京子「成長、か」
結花「大人になっても…ですか?」
姫乃「うふふ。むしろ、体の成長が止まっちゃった大人にこそ、必要なのかもね」
京子「うん。例え年を重ねても、そのマイナス以上に成長できたんなら、これも大事な1年だった。って感じれるわね」
姫乃「いずれにしても、この一年に満足していれば、楽しかった、嬉しかった一年を慈しめるし、頑張った、辛かった一年も褒めて上げられるのよ」
京子「そのためには、」
紗織「今日一日を、」
結花「精一杯生きる!ですね!」
姫乃「せーかい♥」
ピピピ、ピピピ……
京子「あ!明日になっちゃったわよ…」
姫乃「あらあら、カウントダウンしようと思ったのにねぇ」
紗織「まだ、まだ間に合います!ささ、皆さん飲み物を持ってください!……それでは、結花の19歳のお誕生日を祝ってぇ…」
結花「ま、待ってください!」
紗織「ど、どうしたの結花!もう誕生日入っちゃったのに!」
結花「今日は、みんなのお祝いにしよう!」
紗織「えぇ!?」
姫乃「あらあら」
京子「どういうこと…?」
結花「みなさんは、今日は誕生日じゃないけど、それぞれ一生懸命生きてきて、それに、えっと、あたしみんなのことも大好きだし……、だから、お祝い!」
紗織「えーなにそれー!」
姫乃「うふふ、ありがとう。結花ちゃん」
京子「それじゃあ誰が祝われるのか分からないじゃない…」
結花「だから、みんなでみんなをお祝い!ね?」
姫乃「いいんじゃなあい?」
紗織「結花がいいなら、いいけど」
京子「まったく。仕方ないわね」
紗織「じゃ、そういうことで、改めて……」
全員「おたんじょうび おめでとー!」
京子「……へんなの」
姫乃「いいじゃない?結花ちゃんらしくて」
京子「別にイヤだなんて言ってないじゃない…!」
姫乃「うふふ」
紗織「さあさあ、姫乃さん、京子さん!プレゼントの方をお願いします!」
結花「えっ!プレゼントなんかあるんですか!?」
紗織「当たり前じゃなーい!手ぶらで来るほど、野暮じゃないわよ~。…はい、あたしからはこれ!」
結花「わぁ!ありがとう!」
紗織「あけてみて!あけてみて!」
結花「うん!……うわぁカワイイ~!これはキャンドル?」
紗織「そう!アロマキャンドルだよ~。で、こっちは入浴剤!」
結花「わぁ~すごいお洒落~!使うのもったいないな~」
紗織「ええ~使ってよぉ。せっかくなんだから~。……じゃあ次は、京子さん!」
京子「あ、あたしか。……はい、おめでとう」
結花「ありがとうございます!……これは、手帳とハンカチですか?」
紗織「えらく実用的ですね…」
京子「ああ。結花、新しい手帳欲しいって言ってたし。そのハンカチも、結花が好きなブランドのやつにしたよ」
結花「覚えててくれたんですか!?」
京子「……まあね。気に入ってくれるといいんだけど」
結花「はい!ぜび使わせてもらいます!ありがとうございます!」
紗織「よかったですね、京子さん?」
京子「……あぁ」
紗織「じゃあ最後に、姫乃さん!」
姫乃「はぁい。……私からは、はい」
結花「うわぁ!すごいお花!」
紗織「大きい花束ですねー!」
結花「きれー」
京子「いい香りねぇ」
姫乃「あとは、これ」
結花「なんですか?この箱」
姫乃「うふふ。あけてみて」
結花「はい、……うわぁ!ケーキ!」
紗織「ええ!これまた大きなケーキ!」
京子「すごいな。手作り?」
姫乃「うふふ。そうね」
結花「えええええ!!」
紗織「えええええ!!」
姫乃「張り切りすぎっちゃったわね。さ、みんなで食べましょう!」
紗織「やったー!」
結花「ありがとうございます!姫乃先輩!京子先輩も!もちろん紗織ちゃんも!」
姫乃「うふふ、喜んでもらえて良かったわぁ」
京子「まぁ、お祝いだしね」
紗織「そんな顔されたらこっちも嬉しいな~もう~」
「じゃあ、ケーキ切るわねぇ」
「今から食べたら太るな~」
「いいじゃない、今日くらい!」
「ていうか、なんで好きなブランドなんか知ってたんですか?」
「え、そりゃいつも身に着けてるから…」
「うふふ、よく観察してるわねぇ」
「バカっ、ちがうわよ!」
「あははは」
「あははは」
「うふふふ」
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
Happy birthday to you...