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Sweet Dreams

作者: みるく

「私はこの世でノブレス・オブリージュという言葉が一番嫌いなんです」

 そう言って目の前の女は泣き出した。

 迷いに迷ってたどり着いた女の選んだワインバーは、限りなくセンスが良い。

 明るい店内で、私たちはいつも通りにスパークリングワインで乾杯して、アヒージョを頼んだ。

 そして酔いにまかせて私の家系を、先祖代々漢学指南役で、曽祖父も祖父も国語教員、母も国語教員の免許を持っていると説明したあたりから彼女がぽつりぽつりと話しだした。

「私の父も大学教授なんです」

 初めは特に何が言いたいのか意図を測りかねて、時間はたっぷりあったので、私はワインを一口飲んで、女が続けるのを待った。


 女は、私の高校時代のメル友の妻である。

 メル友とは形を変えて十年くらいネット上でのみ付き合いが続き、そして私は彼が結婚すると聞いて彼らの結婚式に出席した。

 一人では手持ち無沙汰だったので、男二人と一緒に過ごした。二人の男は、新郎の高校時代の友人で、警戒心のない私はすぐに打ち解けた。

 自慢ではないが、私はそういう積極的フレンドリーさを持っている。

 友達と母親からは、よく心配されるけれども。


 女は、泣き叫ぶように絞り出すように吐き出した。

「私の父も学者で、よくノブレス・オブリージュと言われました。私はそれが本当に嫌で」


 その女だって優秀な私立大学の法学部を出て、とある企業で金持ちから金を巻き上げることを生業にしている。個人営業を自ら志願し、つまりは人と人とのやりとりが上手い女である。そして成績は全国で五本の指に入るそうだ。ただしボーナスの額は夫の方が上らしい。


 その女が、今、無職の私の前で、親への恨みつらみを述べている。


 私は、同情もせずに女を見た。


 私は、「ノブレス・オブリージュ」という言葉に興味も関心もない。薩摩隼人の末裔に温情を期待する方が間違っている。嫌いだというのだから、彼女自身はアッパークラスの誇りはないわけねと判断した。

 甘えだと突っぱねることはしない。

 私は、愚痴を聞くことに慣れている。

 私は甘いワインをもう一口ごくりと飲みこんだ。


 その後のこと、ワインバルで泣いて泣いて泣いた女は、親との関係が良くなったそうだ。

 愚痴ったことが、女のストレスを解消したらしい。

 私も、最初は嫉妬されていたはずが、いつの間にか悩みを聞いてあげる立場になるとは思わなかった。しかし、そういうこともある。


 あの日から数えて何日経つだろうか?大変な雪が降ったある寒い日、彼女はとある女子校出身の自称クイーンを呼んで、今度はベルギービールの店で乾杯した。

 私と女王は、女子校で生き抜く術とヒエラルキーについて語り合い、真っ向から意見を言い合い、その結果、信頼という絆を得ることが出来た。


 その女王が、もうすぐ留学から帰ってくる。


 帰ってからの、土産話と酒と遊びが楽しみだ。

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