4月〇日 3
「瑞希さん、こちらが駐車場です」
瑞希は、背の高い柔らかな雰囲気を醸し出している男子高校生と寮の中を歩いていた。
市田は瑞希に一通り説明し終わると、学園に戻らなければならないと言い、携帯で今瑞希を案内している男子高校生――白糸玲を呼び出した。そして、市田は玲に寮の中を案内するように指示を出し、学園へと戻ってしまった。
市田が言うには、【影】の調査の際には基本的に二人一組で行動する事となっており、玲が瑞希のパートナーらしい。
瑞希が玲に抱いた第一印象は眉目秀麗。玲はそれくらい整った顔をしていた。柔らかそうな髪は少し色素が薄く、不快にならない程度に長い。その事が、中性的な魅力をより際立たせていた。
「ここにはバイクや原付、自転車も置けますから」
瑞希が駐車場を見渡すと、月極めで貸し出しているのか数台の車が駐車されていた。端の方には原付が一台と自転車が数台置いてある。
「自転車やバイクを停める場合、一応、申請をする事になっています。後程案内するラウンジの店主に口頭で伝えれば大丈夫です」
そう言うと、玲は瑞希に微笑みかけた。瑞希は玲の顔を見て、ここまで綺麗な笑顔が出来る事に感心していた。
「じゃあ、次行きましょうか」
瑞希が見惚れている事に気が付いているのかいないのか、玲はスタスタと歩き出した。瑞希も遅れないよう、慌てて玲の後を付いて行った。
駐車場へと続く扉を出てすぐ隣の扉を開いた先には、二十畳程の和室となっていた。壁には数本の木刀や長い木の棒がある。
「こちらが訓練用の道場です。訓練の事は市田さんから聞いていますか?」
「はい。明日から、放課後に武道の訓練をするって……」
瑞希はそこまで言うと急に不安になった。剣術は源三に引き取られてから続けているが、武道といっても様々だ。もし、経験の無い武道を行えと言われてもすぐに出来るようになるわけがない。
「心配しなくても大丈夫ですよ。瑞希さんはあの市田さんと剣術では同門なのでしょう? 武道といっても、確実に剣術稽古ですよ。それに、【影】を駆除する為の方法を学ぶんです。最初はその基礎からですよ」
玲は瑞希にそう言い、にこりと微笑んだ。その顔を見ていると、瑞希の不安など何処かに行ってしまいそうだった。
「明日から、ここには嫌というほど通います。っと、そうだ。隣の射撃場も追々使う事になりますから、一応案内しておきますね」
玲は武道場の扉を閉めると、向かいの扉を開けた。そこは奥行きが二十五メートル程ある、鰻の寝床のような細長い部屋だった。入り口近くにはカウンターのようなものが設置されており、反対側の壁付近には的のような物があった。
「射撃訓練はここで行います」
「……!」
瑞希は絶句した。射撃訓練までする事に驚いたと同時に、銃を持たなければならない程、【影】の駆除は危険なのだろうかと不安が押し寄せる。
「射撃訓練といっても、駆除に使うのは昔流行った銀玉鉄砲に近いもので、訓練は確かペイント弾を使うはずです。いくら警察庁とつながりがあるといっても、本物を持っていたら銃刀法違反になってしまいますから。それに、銃を使う機会は殆ど無いはずですよ。瑞希さんがよっぽどの運動音痴でない限りないね」
玲は瑞希の不安を見透かしたように、瑞希に微笑みかけた。微笑み一つで不安を解消させる、主に女性に対して有効な玲の特技の一つだ。
「地下はこれで終わりです。次に行きましょう」
玲は射撃場の扉を閉めると、エレベーターへ向かって歩き出した。
玲に一通り寮の中を案内された瑞希は驚いていた。個室も想像以上に凄かったが、共用施設はそれ以上だった。一階には広いラウンジが、二階にはジムとプールが、最上階には男女それぞれの大浴場まであった。ここまでくると小規模なホテルだ。
「瑞希さん。そろそろお腹、空きませんか?」
案内された大浴場の設備に驚いてキョロキョロしている瑞希に、玲は苦笑しながら声をかけた。
「そろそろ他の特待生も帰って来ますし、宜しければ下のラウンジで夕食にでもしませんか?」
「あ、はい。他の人達は外出されていたんですね」
玲に案内された共用施設には誰もいなかった為、瑞希は玲以外の特待生達は自室にいるものだと思っていたが、違ったらしい。
「まあ、高校生ですからね。付き合いとかもあるみたいですよ」
「もしかして、白糸先輩も今日、何か用事とかあったんじゃ……?」
「まあ、一応。クラスメイト達と出かけることになっていたのですが――」
他の特待生に用事があったという事は、玲にあってもおかしくない。もし、市田の言いつけで無理矢理付き合わせてしまっていたのなら、迷惑以外の何物でも無いだろう。瑞希は、玲に入学初日から迷惑をかけてしまった事を申し訳無く思い、下を向いた。
「あ、気にしないで下さいね。逆に助かったくらいですから」
「え?」
瑞希が玲の言葉に驚いて顔を上げると、微笑んでいる玲と目が合った。
「大人数で騒ぐというのは性に合わなくて。あまり気乗りしなかったんです。さあ、ラウンジに行って食事にしましょう!」
瑞希は、先に歩き出した玲の背中を見ながら、見た目通りに優しい人がパートナーで良かったと、心底ホッとしていた。




