6月■日 7
今回は長めです。
虐待表現があります。苦手な方はご注意下さい。
瑞希が目を覚ますと、そこは映画館だった。スクリーンの明かりは点いているが、映像は流れていない。白いスクリーンの光で映画館全体が薄暗く照らされていた。がらんとしていてとても寂しい映画館の雰囲気に呑まれ、心細くなった瑞希は誰かいないかと見て回る事にした。
不安な面持ちで瑞希が席を見て回ると、丁度中央の席に人が一人座っているのが見えた。ここにいるのが自分一人ではない事に一先ず安心し、瑞希はゆっくりとした足取りで席に座る人物に近づいた。勿論、ここがどこかも分からない為、警戒は怠らない。
人影に近づくにつれ、スクリーンの光に照らされる顔がはっきりと分かるようになる。席に座る人物の横顔に、瑞希は警戒を解いた。そして、瑞希が声を掛けようとした矢先、席に座る人物――玲はゆっくりと瑞希を振り返り、表情の篭らない眼差しを向けた。
「あ、あの……!」
「もうすぐ始まりますよ? これを見に来たのでしょう?」
玲はそう言うと、白く光るスクリーンを指差した。瑞希がつられるようにスクリーンに目を向けると、スクリーンにノイズが映し出され、カウントダウンの映像が流れる始める。玲の座る席から一つ席をあけて腰掛けた瑞希は、普段と様子の違う玲を気に掛けつつも、スクリーンに流れる映像を大人しく見る事にした。
『私は十八年前の四月十五日、都内の病院で産声を上げました。母は旧家の出で、所謂お嬢様というくくりになるのでしょう。大変物静かな、美しい女性でした』
ナレーションだろうか、雑音が少し入った玲の声が流れ、それに合わせるように病院や、どことなく玲に面差しが似た綺麗な女性の映像が流れた。
『母は三人兄妹の末っ子でした。母の兄は実家の家業――有名企業を傘下に持つ財閥の総帥と、有名私立学校の経営を継ぎ、財政界に影響力を持つ大物となりました。文武両道を絵に描いたような人で、古武術、柔術、剣術、薙刀や弓道などを嗜んでいました。私や従姉弟達にそういった武術を一通り教えるなど、厳しくも優しく接してくれました』
スクリーンに流れたのは厳しい表情をしつつも、どことなく柔らかな眼差しを向ける男性だった。瑞希はその眼差しを何処かで見た事がある。しかし、どこで見たのか思い出せず、小さく首を傾げた。
『母の姉は古くからある寺に嫁ぎ、女の子を二人、そして私が産まれた数か月後に男の子を一人出産しました。少し変わったところがある人で、三兄妹の中では少しだけ浮いていたようですが、私はそんな伯母が嫌いではありません』
次に映し出されたのは、人懐っこい笑顔をした綺麗な女性だった。何処かで見た事がある顔だが、瑞希の知り合いにこんな綺麗な女性はいない。瑞希は再び首を傾げた。
『私の父は会社を経営していました。旧家の出の母にコンプレックスを持っていたようでしたが、会社経営が順調な時は妻や子に優しい男でした。私が小さい頃は家族三人、仲良く暮らしていたような記憶が朧げながらあります』
スクリーンには家族写真だろうか、先ほど映し出された玲に面差しの似た女性、色素の薄い長身の男性、そしてその間には母親似の顔をした、髪の色素の薄い可愛らしい男の子が立っていた。三人とも穏やかに微笑んでいる。
『そう。私が幼い頃は良かったんです。しかし、私が小学校に上がる直前、父の会社の経営が芳しくなくなり、小学校低学年の頃に倒産してしまいました。すると、元来酒好きだった父は昼夜問わずに酒に溺れるようになり、働く気力が無くなりました』
先程の家族写真の男性がアップで映し出される。しかし、先ほどの穏やかさは無く、無精ひげが伸び、目が据わった男性は攻撃的な眼差しをしていた。
『母はそんな父に戸惑いつつも、家族の生活費を実家に無心するなど、文句も言わず、父の言いつけに従っていました。そんな母に、父は酒を飲んでは暴言を吐き続けていました。それだけだったらまだ良かった。ある日、父は酒に酔って暴れた挙句、それを止めようとした母を殴りつけました。それで箍が外れてしまったのでしょう。毎日のように酒を飲んでは暴れ、家の中を滅茶苦茶にし、母や私を殴っていました。母はよく泣いていました。しかし、私には決して父の悪口を言わなかった。母は「酒があの人を狂わせた」と言っていました』
流れた映像に、瑞希は顔を背けた。先程の男性が妻や子どもを殴っている。殴られた母親を庇うように子どもが泣きながらも手を広げて制止しようとし、突き飛ばされて更に殴られる。そんな映像だった。
『低学年の頃は父の暴力に耐え、なるべく父を刺激しないよう、母と共に息を顰めるように生活していました。それでも殴られる時は殴られましたが。そして、小学校三年生の頃、夏休みを利用して母の実家に遊びに行った際に転機が訪れました。遊びに行ったというよりは避難したと言った方が正しいのかもしれませんね。何せ、安全なのは父が寝ている時くらいでしたから』
スクリーンに大きな屋敷が映し出される。立派な佇まいの日本家屋に、少し成長した先程の少年が大きな荷物を抱えて入って行った。
『伯父に武術の稽古をつけてもらおうと着替えていた時でしたか……。偶々部屋に入って来た伯父が私の痣を見咎めました。この頃、父は顔面を殴る事を極力避けているような節があり、服さえ脱がなければ殴られている事なんて分かりませんでした。私としては隠し通すつもりでいましたが、伯父に詰問され、全てを打ち明けました』
壮年期に差し掛かった男性が、少年の両肩に手を置き、厳しい表情で何かを問い掛けている場面が流れた。
『私達家族が金の無心をしても、母の実家は揺るがない。だから父の事を大目に見ていた部分があった伯父ですが、武術を嗜む人間として父の暴力は許せなかったのでしょう。その日のうちに私を連れ、父の元へと赴きました』
車に乗せられ、壮年男性と共に何処かへ向かう少年の姿が流れる。その表情は不安で押しつぶされそうになっていた。
『父の暴力を誰かに言えば、激昂した父がさらに暴力をふるう事が分かっていた。だから最初は伯父には転んだと繰り返していました。暴力など振るわれていない、と。でも、伯父は聞く耳を持ちませんでした。今となっては当たり前だと分かります。転んで出来た痣と殴られて出来た痣は出来る箇所が違う。伯父は、父との話し合いで、もし私と母に暴力を振るっているのならば、私と母は実家で引き取るとまで言ってくれた。私としてはこれ以上、父とは暮らしたくなかった。誰でも良いから助けて欲しかった。だから、伯父の言葉はその時の私にとって一筋の希望の光だった』
映像は壮年男性が厳しい表情で少年の父親を詰問しているような映像になっている。少年の父親は委縮し、冷汗でも流しているのだろうか、しきりに顔を拭っていた。
『しかし、伯父の言葉を聞いた父は慌て、表面上は反省して見せました。だって、母は大切な金ズルですから。母が実家に金の無心をしなければ、朝から晩まで酒を飲んで暮らすなんて出来ない。だから、父は「もう酒は飲まない。勿論、家族にも手を上げない。だから、家族を奪わないで欲しい」と涙を流しながら伯父に土下座までしました。伯父はそんな父を見て、渋々ながら引き下がりました』
少年の父親が泣きながら土下座をしている。必死に許しを請う姿に、腕組みをして難しい表情をしながらも壮年男性が頷く。すると、少年の父親が嬉しそうに顔を上げた。
『しかし、数日経つと父は酒を飲み、私に再び暴力を振るいました。私は外にも出してもらえなくなり、気を失うまで殴られる事もありました。父は私が自ら伯父に告げ口をしたのだと思っていたのでしょう。父の暴力は全て私に向かいました。私は父の暴力に耐えながら父を、そして父と別れようともせず、私を助けようともしない母を恨んだ』
瑞希は再びスクリーンから顔を背けた。スクリーンには必死に助けを求める少年と、そんな少年に馬乗りになって殴る男性、そして、それを泣きそうな表情になりながら部屋の隅に蹲り、怯えたように見つめる女性が映し出されていた。
『父の暴力に耐え続けていたある日、私は父の後ろに【影】が見えるようになりました。最初はそれが何か分かりませんでした。それは日に日に大きくなっている事に気が付き、私は怖くなりました。そして、私は父の寝ている隙をついて家から逃げ出しました。深夜、体中傷だらけの子どもが歩いてれば当然通報されますよね。私は無事警察に保護されました』
痣だらけの少年が交番と思しき場所で事情聴取を受けている。泣きもせず、無表情の少年は、警察官に聞かれた事を素直に話しているようだった。
『その頃の私は、父の後ろにいる【影】がとにかく怖かった。警察官に「家には帰りたくない。伯父に連絡をして欲しい」と頼みました。連絡を受けて迎えに来た伯父は、私の姿を見て大層驚いたようでした。当たり前ですよね。伯父は、父がもう私や母に暴力は振るっていないと思っていたのですから。まさか、傷だらけの私が深夜に保護されるとは思ってもみなかった。伯父は怒り狂いました。父の制止を振り切り、その日のうちに私と母を実家に連れて行きました』
無表情の少年とその母親を強引に連れ出した壮年男性に、少年の父親が必死にしがみついている。しかし、運転手と思しき男性と、壮年男性の連れだろうか、スーツ姿の男性に両脇を抱えられ、家の中に半ば引きずられるように連れて行かれた。
『それから暫くして、父は自殺をしました。【影】の影響でしょう、きっと。私と母を父の元から連れ出した時、伯父にも【影】は見えていたはずです。優秀な能力者ですから。でも、伯父は父を見殺しにした。【影】を駆除する事だって出来たのに、駆除するつもりはなかった。そして、父の訃報を聞いた母も、その日のうちに父の後を追いました。母はあんな男でも心から愛していた。そう、妻や子を殴るようなろくでなしを……』
スクリーンの映像は葬儀の場面になっていた。先程の映像にあった家族写真を加工したものだろう、男女二人の遺影と棺が映し出されている。多くの参列者が葬儀の場に並んでいた。
『私はその時、両親を亡くしても何も思わない――いえ、喜んでいる自分に気が付きました。それ程、両親に対しての憎しみの方が強かった。私は両親の通夜の席で、伯父に「父の後ろに黒いものがいたんだ。それのお蔭で父が死んで、母も死んだ。あの黒いものはきっと死神だったんだ。死神が二人を殺してくれた。これでやっと自由になれた」と嬉々として語りました。それを聞いた伯父は大層複雑な表情をしていました。私が能力者だという事は薄々感じ取っていたみたいでしたが、霊力の波長が弱い私がまさか【影】が見えているなんて思っていなかったのでしょう。能力者の家系の事、家系に極々稀に元々【影】が見える者が出る事、母の姉が元々見える人だという事を教えてくれました』
壮年男性は屈むと、悲しそうな表情で少年の頭を撫でた。少年の表情は乏しく、感情の篭らない目で男性を見つめている。
『両親の葬儀から数日が経ったある日、伯父は「お前は家族の温かさを理解せずにここまできた。私はお前を何とかしたい」と言い、伯母の家へと送り出しました。子どもが独りでいる時間が長いというのは心配だった伯父は、伯父なりに考えて伯母の家に私を送り出しのでしょう。伯父は独身で、夜も仕事で遅くなることが多かったので、伯母の家の方が私を育てる環境としては良いだろう、と――』
少年と壮年男性が和室で向かい合って話をしている。少年は不服とばかりに俯き、壮年男性と目を合わせようとしなかった。
『そして、私は伯母の家に引き取られました。伯母の家には年上の従姉二人と同い年の従弟がいましたが、私が引き取られた時には従弟一人しかいませんでした。従姉二人は、大学へ行く為に独り暮らしをしていました』
人懐っこい笑みを浮かべた綺麗な女性が映し出された。先程映し出された時より少し老けたようだが、相変わらず綺麗な女性だった。
『似た者夫婦? おしどり夫婦? そんな感じの伯母の家は夫婦仲の良い、穏やかな家庭でした。伯母は私を気に掛け、良くしてくれました。伯母の夫――住職も、伯父と一緒に挨拶をした時、私を実の子として、従姉弟達と何ら変わりなく育てるつもりだと仰って下さいました』
袈裟をつけた男性が映し出される。整った顔立ちで坊主頭の良く似合う、凛々しい表情をした男性だった。
『従弟とも一緒に学校に通い、遊び、兄弟のように過ごしました。もしかしたら、中学に上がるまでの数年間が一番幸せだったのかもしれません』
スクリーンに可愛らしい少年が映し出される。先程の人懐こい笑みを浮かべた女性にそっくりの少年だった。思い当たる人物に、瑞希はハッとして玲を見るも、玲は無表情に映像を見つめたまま微動だにしなかった。
『住職も能力者で、大変腕が良いと一部の人間には評判でした。よく【影】に憑かれた人が救いを求めにやって来ていました。その中に、よく従弟と遊んでいる子がいましてね。従弟にはとても懐いていましたが、私とはなかなか打ち解けようとしない子だった』
不機嫌そうな表情の少年がスクリーンに映し出される。彼は今、病院のベッドで痛々しい姿になっている。
『中学に上がると、私と従弟は住職に霊力の扱い方を習い始めました。私がどんなに努力しても従弟は私の一歩先、二歩先をいってしまう。彼に出来る事が私にはなかなか出来るようにならなかった。住職は個人差があるものだから気にする必要は無いと仰って下さったのですが、気にするなという方が無理というものでした。同い年で体格はほぼ同じ。訓練を始めた時期も同じ。でも、彼には能力では勝てませんでした。当たり前の事なんです。彼の父は腕の良い能力者であり、彼の母もまた能力者なのですから。彼は、いわばサラブレッド。一方、私はというと、母の家系が能力者を輩出していますが、両親ともに非能力者です。雑種の私が勝てる訳がない。でも……それでも、私は彼に負けたくなかった』
二人の少年が道場のような場所で霊力の訓練をしている映像が流れる。髪の色素が薄い少年――玲は、苦々しい表情で人懐っこそうな少年――蓮を見つめていた。
『彼に勝てるなら何でも良かった。だから、私は彼に勝てるものが何か無いかと色々と探しました。本当に何でも良かったんです。勉強でもスポーツでも、人間関係――同級生からの人気でも。それこそ血の滲むような努力をしました。でもね、私は何一つ彼に勝てなかった。彼は大して努力していないように見えるのに。才能の差なんでしょう。天才に凡人は勝てない。彼に勝てるものが何一つ無いと察した私は、従弟を疎ましく思うようになりました。だって、私が持っていないものを、彼はたくさん持っているのですから。優しい家族も、能力者としての才能も、親しい友人も……』
スライドの様にスクリーンの映像が次々と切り替わっていく。ごちゃごちゃとした映像だったが、中学校の体育祭や文化祭、何かのイベントらしきものの写真が映し出されているようだった。写真の中心では蓮が満面の笑みを浮かべている。
『だから、ある日私は彼を階段から突き落とした。だって、彼がいなくなれば私が彼に負ける事はない。だから、彼にいなくなって欲しかった。私の目の前から消えて欲しかった。でもね、階段の下で怪我をして苦しんでいる彼を見たら急に怖くなったんです。私はその場から逃げ出しました。彼は額を切って、腕を骨折していました。今でも額に傷跡が薄く残っているはずです。私に気を遣って、前髪で隠していますけど』
あどけなさの残る玲が階段から蓮を突き落とした場面が流れている。玲の表情は仄暗く、子どものするような表情ではなかった。
『そんな怪我をした従弟でしたが、私を笑って許してくれました。恐らく、伯母から私の事情を聞いて、私に同情していたのでしょう。ずっと私に優しくしてくれていたのも、私にただ同情していただけだった。彼は両親に誤って階段から転落したと言い、その後も私に変わりなく優しく接してくれた』
片腕を吊った蓮が、玲に優しく笑い掛けている。
『そして、高校受験を控えたある日、伯父が私と従弟に会いに来ました。伯父は、自分が理事長を務める高校に私達を特待生として迎えたかったのです。勿論、私達は二つ返事で了承しました。学力はトップクラスの高校ですから。そして、高校入学後、特待生の役割と学生の本分の学業に取り組む事になりました』
スクリーンには入学式の写真だろう、玲、蓮、蓮の両親の四人が校門の前に並んで写っている写真が映し出されていた。皆、穏やかに笑っている。
『高校入学して初めての中間テストで、私は学年一位の成績を、従弟は学年二位の成績をおさめました。私はこの時、初めて彼に勝つことが出来たと思った。でも、それは幻想でしかなかった。彼は私に同情をしていただけだった。同じ中学からの進学者がいないから、彼が二位になる事を疑問に思う者いない。それを承知の上で、彼は私に一位を譲っただけだった』
再びスクリーンの映像が乱れた。先程よりも酷い乱れで、ノイズが入り乱れたそれは映像と呼ぶに相応しいかさえ分からない。
瑞希は慧子の言葉を思い出した。傀儡は人の一番弱い部分に【影】が憑いて人を操ると言っていた。この映像が玲の記憶ならば、家庭環境やそれに伴う蓮への嫉妬、羨望といった感情が玲の最も弱い部分なのだろう。もしかしたら、玲は自分自身を嫌っているのかもしれない。
瑞希自身にも分かる感情だった。瑞希も従弟の誠へ同じような感情を抱き、感情に任せて誠や源三に八つ当たりをした事があったからだ。その時、瑞希は初めて源三に頬を殴られた。泣いている瑞希を抱きしめながら源三も泣いていおり、二人でおいおい泣いていたのは瑞希にとっては良い思い出になっている。源三も誠も、その後に態度を変える事も無かった。瑞希はそんな二人を見て、浅はかな行動を後悔した事もあったし、自分自身を嫌いになりそうだった。しかし、源三や誠が瑞希を大切に想ってくれているのだから、瑞希も自分自身を大切にしようと思ったきっかけにもなる出来事だった。
「白糸先輩」
瑞希は静かに玲を呼ぶと、椅子から立ちあがった。玲も瑞希と同じように立ち上がる。すると、周りの空間が揺らめき、見渡す限り何も無い、真っ暗な空間になった。
「同情だけで三井先輩が優しくしてくれていたと、本当にそう思うんですか?」
玲は無表情で瑞希を見つめている。その瞳には感情の欠片も見られず、仄暗い光を湛えていた。
「本当は分かっているんじゃないですか? ずっと三井先輩の傍にいたんですから。三井先輩が、白糸先輩を家族として大切に想っている事……」
玲の瞳が一瞬揺らぐ。しかし、すぐに感情の篭らない瞳になった。
「同情と愛情は紙一重で、とても分かり難いと思います。でも、どんな時でも三井先輩は変わらずに接してくれたんじゃないですか? 家族として、白糸先輩を大切に想っていてくれたんじゃないですか? 三井先輩もきっと怖かったと思います。家族に嫌われるなんて、そんな辛い事無いですよね?」
玲の瞳が再び揺らいだかと思うと、玲は両手で頭を押さえて蹲った。瑞希は蹲る玲の傍らに膝をつくと、玲の手をそっと優しく握った。ハッとしたように玲が瑞希を見つめる。
「皆のところに帰りましょう? 三井先輩や市田さんが心配していますよ? 帰って安心させてあげましょう?」
「私は……」
呟いた玲の瞳の揺らぎが大きくなる。
「白糸先輩。もっと自分を好きになってあげて下さい。じゃないと、白糸先輩を大切に想ってくれる人が悲しみます」
瑞希はそう言うと、玲に優しく笑い掛けた。力が抜けたように玲の瞼がゆっくりと閉じていく。一筋の涙を流しながら。
そして、周りの闇が光の粒子になって舞い上がる。瑞希の視界が、眩い光に包まれて真っ白になった。




