6月△日 2
今回は長めになってしまいました。
帰り支度を済ませた瑞希は、あたふたしながらスマートフォンを鞄から取り出した。今日は掃除当番の為、帰れるまでに少し時間が掛かってしまう。その事を玲と蓮に連絡しなくてはならなかった。本当は昼休みに連絡すべきだったのだが、瑞希はついさっきまで、自分が今日掃除当番だったという事を忘れてしまっていたのだ。「今日は掃除当番の為、帰れる時間がいつもより遅くなります。連絡が遅くなってすみません。掃除が終わりましたらまたメールします」と、玲と蓮にメールを送った瑞希は、教室の掃除に取り掛かる事にした。
晴嵐学園は良家の子息子女が集まる私立高校という事もあり、基本的に清掃会社が掃除をしてくれる。しかし、理事長の市田の方針で、教室だけは使用している生徒が掃除をする事になっていた。数名のグループでの掃除当番は、生徒たちの不人気当番の圧倒的第一位だった。
「掃除当番って面倒臭いよねぇ」
瑞希が机を教室の端に寄せていると、香織が机を運びながら話し掛けてきた。小さく頷いた瑞希だったが、掃除自体は苦にならない。今はそれよりも、玲と蓮を待たせてしまっている事が心苦しかった。瑞希はこの日ほど、掃除当番というシステムを恨めしく思った事は無かった。
「瑞希ちゃん。これ、焼却炉に捨ててきて?」
香織はそう言うと、満面の笑みで瑞希にゴミ箱を手渡した。
「これ捨てたら、瑞希ちゃん帰っても良いよ。真田のお見舞い、白糸先輩と三井先輩と一緒に行くんだよね?」
「でも……」
瑞希は戸惑った。香織が好意で言ってくれている事はよく分かっているが、他のクラスメイトの手前、当番を放り出して先に帰ってしまうわけにもいかない。
「じゃあさ、交換条件でどうよ?」
「交換条件?」
「そう。白糸先輩にね、優しい友達が掃除の途中で抜けさせてくれた、とか言ってくれると嬉しいな」
香織が頬を赤く染め、もじもじとしながら言った。
「え、でも……」
「俺は眞鍋先輩に優しいクラスメイトがいるって言ってくれると嬉しい!」
「俺も!」
戸惑う瑞希に、すぐ近くで机を運んでいた男子生徒が二人、怖いくらい真剣な表情で言った。心なしか、目が血走っている。
「私、広田さんと同じね。白糸先輩に言っといて!」
「あ、私も!」
机の上を拭いていた女子生徒が手を上げて叫んだ。
「俺、伊勢先輩で!」
「俺も!」
窓を拭いていた男子生徒が叫んだ。髪の毛を明るい色に染め、制服を着崩している不良っぽい外見の割に、掃除当番をさぼらないあたり、実は真面目な生徒なのだろう。
「あ、私も伊勢先輩!」
「え~? 伊勢先輩ってなんか怖いし、趣味悪くない? 私は三井先輩が良い! 顔の綺麗さでは誰にも負けないでしょ!」
「あ、私も三井先輩! ちょっと変わっているけど、そういうところも大好きなんだ!」
「私も三井先輩!」
「私も!」
床を掃除していた女子生徒が口々に叫ぶ。
「あ、あの……」
予想外の展開に、瑞希はオロオロしながら香織とクラスメイトの間で視線を彷徨わせた。
『んじゃ、俺達は優しいクラスメイトがいるって、蘇芳さんに覚えといて欲しい!』
瑞希が戸惑っている間に一致団結したのか、床を掃除していた男子生徒数人が声を揃えて叫んだ。よくよく考えると、これで掃除当番全員が意見を言った事になる。
「え? えっと……?」
「ほら、みんな利害一致したよ! じゃあ、ゴミ捨てよろしく~!」
そう言った香織は、ゴミ箱を持つ瑞希を廊下へ出すように、その背中をグイグイと押した。
『よろしく~!』
色々な意味が込められた声に押され、瑞希は大人しく焼却炉に向かう事にした。
瑞希はゴミ箱を持ちながら、よたよたと廊下を進んだ。掃除当番が毎日焼却炉にゴミを捨てているはずなのだが、大きなゴミ箱はすぐにいっぱいになってしまう。今日もゴミ箱はいっぱいになっているうえ、誰かが上から押しこんだらしく、紙類ばかりがぎっしり詰まったそれはかなりの重量があった。
――えっと、焼却炉ってどっちだっけ?
今まで掃除当番は何回か回ってきたが、あまり焼却炉に行く機会が無かった瑞希は、立ち止まって学校の地図を思い出した。
晴嵐学園の校舎は、理事長室や職員室などがある管理棟と、教室があるA棟、特別教室や視聴覚室、LL教室などがあるB棟、食堂や図書館があるC棟の四棟がある。それらがロの字型になっており、脇に体育館や室内プール、武道場がある体育棟、正面と裏側にそれぞれ球技用と陸上用の広大なグラウンドがある。
――確か、体育棟の裏側だったはずだから……。こっちか!
よたよたと歩を進める瑞希を数人の男子生徒が振り返り、心配そうな眼差しを向けていたが、当の瑞希は全く気が付いていない。瑞希は今、玲と蓮を待たせている手前、早くしなければと気が逸っていた。
「あった、あった!」
瑞希は、無事に焼却炉にたどり着けた安心感と嬉しさでついつい出てしまった独り言を呟き、焼却炉の前にゴミ箱を置いた。
――あとは、ゴミを捨てて急いで教室戻れば病院に行ける!
満足そうに笑った瑞希の背に、突然悪寒が走った。驚いて振り向くと、巨大な【影】が四匹、ゆっくりと瑞希へ近づいて来ていた。幸い、周囲に人影は無くいので、速やかに駆除すれば問題は無いだろう。しかし、学校内で【影】に遭遇すると思っていなかった瑞希は、教室に置いてある鞄に警棒を入れたままだった。
どうしようか逡巡している間に、【影】はゆっくりとではあるが着実に瑞希に近づいて来ていた。一瞬、瑞希の脳内に逃げるという案も浮かんだが、もし一般の生徒が【影】に憑かれてしまっては取り返しがつかない。その為、その案は速やかに却下された。
――やるしかない!
瑞希はそう気合を入れると、両手に霊力を込めた。瑞希の手がピンク色に光る。玲の真似をして素手で【影】を倒そうと思った瑞希だったが、玲とは違い、体術は殆ど使えない。一瞬躊躇した瑞希だったが、意を決して【影】に向かっていった。
瑞希は玲の動きを思い出しながら【影】に拳を叩き込んだ。豆腐を叩き潰したような手ごたえしか無いが、【影】の腹に大穴が開き、その穴から崩れるように【影】は光の粒になっていく。ダメ押しとばかりに崩れ始めた【影】の頭部に再度、瑞希は拳を叩き込んだ。一気に【影】の崩壊速度が上がり、あっけなく一体目の【影】は光の粒子になった。
よし、と心の中でガッツポーズを取った瑞希が残りの【影】を駆除しようと振り向くと、突然視界一杯に【影】が出現した。何の前触れも無く目の前に出現した【影】を前に瑞希は足がすくんでしまい、咄嗟に動けなかった。瑞希の視界が闇に閉ざされる。
瑞希は源三の家の和室で遊んでいた。目の前には今よりずっと幼い誠がいる。遠くで電話の鳴っている音が聞こえる。すぐに止まったところをみると、誰かが電話を取ったらしい。
――この光景……。
瑞希はこの光景に覚えがあった。記憶通りなら、この後、源三が部屋に入ってくる。瑞希にとっては一生忘れられない日の記憶だ。
「瑞希、入るぞ」
源三が襖を開けて入って来た。その隣には早苗もいる。早苗は泣きそうな顔で瑞希を見ると、何か言いたげに口を開いたが、すぐに目を逸らし、誠を抱き上げて何処かへ行ってしまった。部屋には源三と瑞希だけが残っている。
「瑞希……」
源三が瑞希の名を呼ぶ。瑞希はこの後言われる事は分かっていた。聞きたくないとも思う。しかし、言葉が出ず、じっと源三の顔を見たまま、目も逸らせない。
「瑞希、お前のお父さんとお母さんが亡くなった……」
そう言った源三の目には涙が浮かんでいた。聞きたくなかった。思い出したくも無かった。心が抉られる感覚を覚え、瑞希はギュッと胸を抑えると、きつく目を閉じた。
きつく目を閉じる瑞希の頭を、誰かが優しく撫でた。うっすらと目を開けると、早苗とよく似た笑顔の女性が瑞希の頭を優しくなでている。
「瑞希、おじいちゃんの言う事、よく聞いてね」
「お母さん……」
瑞希の目に涙が浮かぶ。言い様の無い不安が押し寄せる。優しい微笑みを浮かべた男性が瑞希の頭に手を伸ばした。
「瑞希、お利口さんにしていたら早く帰ってくるからね」
「お父さん……」
優しい手つきで頭を撫でられても不安は消えない。瑞希は撫でられた感触を確かめるように両手で頭を押さえながら両親を見上げた。両親は源三と二言、三言言葉を交わしている。そして、瑞希の視線に気が付くと、二人は瑞希に優しく笑い掛けた。
「じゃあね、瑞希」
「行ってきます」
二人は瑞希に手を振り、玄関を出た。瑞希は「行かないで」と叫びたかったが、声が出ない。玄関を飛び出した瑞希は一生懸命二人の後を追った。一生懸命走っているはずなのに、全く追いつけない。それどころかどんどん、二人の背中が遠ざかってしまう。
「お父さん! お母さん!」
瑞希は叫びながら力の限り走り続けた。真っ暗な空間に、両親の背中だけが見える。
「お父さん! お母さん! 行かないで! 私も連れて行って!」
どんどん小さくなる二人の背中に、気持ちばかりが焦ってしまったのか、瑞希は足がもつれて転んでしまった。瑞希は二人の背中に手を伸ばした。
「お父さん、お母さん! 置いて行かないで!」
瑞希の目から涙が溢れる。もう両親の背中は見えなくなってしまった。もう会えない。その悲しみから、瑞希は声を出して泣いた。
「お父さん! お母さん!」
真っ暗な空間に、瑞希の泣き叫ぶ声が響く。ここには慰めてくれる者などいない。それが余計悲しくて、瑞希は更に声を出して泣いた。
「ナウマク・サマンダ・バザラダン・カン!」
突如、蓮の声が真っ暗な空間に響き渡ったかと思うと、空間に亀裂が走った。次の瞬間、ガラスが割れるような音が響き渡り、何もなかった空間が光に包まれる。眩しさで目を細めた瑞希の目の前に、蓮の金剛杵が乾いた音を立てて落ちた。
「瑞希ちゃん!」
蓮が駆け寄って来るのを捉え、安堵からか瑞希は全身の力が抜けるのが分かった。
「三井、先輩……?」
呆然と蓮の姿を見つめる瑞希の前に蓮が屈み込んで、心配そうに瑞希の顔を覗き込んだ。
「三井先輩ぃぃ!」
「よしよし。怖かったね」
蓮が優しい手つきで瑞希の頭を撫でた。優しい手の感触。瑞希は思わず蓮に縋り付く。驚いたように手を止めた蓮だったが、優しく瑞希の背中を撫でた。
「蓮さん?」
瑞希が声がした方を見ると、玲が訝しげな表情で歩いて来ていたが、【影】と蓮の腕の中にいる瑞希を確認し、慌てたように走り出した。
「瑞希さん! 一体、何があったんです?」
玲は【影】から瑞希と蓮を庇うように立つと、瑞希に問い掛けた。
「焼却炉にゴミ捨てに来たら急に【影】が現れて、それで、それで……」
しゃくり上げた瑞希を慰めるように、蓮が瑞希の背中をさする。玲はそんな二人の様子を横目でチラッと確認した。
「取り敢えず、残りの【影】をどうにかしないとですね。蓮さん、瑞希さんをお願いします」
玲はそう言うと、手近な【影】に向かい、拳を振るった。頭部を吹き飛ばされ、一匹の【影】が呆気なく霧散する。玲は軽いステップで方向を変えると、足にも霊力を込め、二匹目の【影】に回し蹴りを入れた。胴体から真っ二つになり、二匹目の【影】も塵へ帰る。最後の一匹も玲が放った上段蹴りが決まり、頭部を吹き飛ばされる。その【影】も他の【影】同様、あっけなく消滅した。
あっという間に【影】を駆除し終わった玲は、ゆっくりとした足取りで瑞希と蓮の元へ戻って来た。玲の視線に気が付いた蓮が、瑞希から手を離す。
「瑞希さん、大丈夫ですか?」
そう言うと、玲は座り込んだままの瑞希に手を差し出した。頬の涙を拭って瑞希が玲の手を掴むと、玲は引っ張り上げるようにして瑞希を立ち上がらせた。
「あの、お二人ともありがとうございます」
瑞希は玲と蓮に向かって深々と頭を下げた。
「で、何があったんです?」
瑞希が先ほどより落ち着いている事を確認した玲は、再度、瑞希に問い掛けた。
「掃除当番で、ゴミ捨てに来たら急に【影】が現れて……。それで、教室に警棒置いて来てしまったので、素手で対処しようとして、それで……」
「突然、目の前に【影】が現れたんだよね。で、完全に憑かれる前だったから、僕の金剛杵投げつけたの。んで、瑞希ちゃんに駆け寄った直後に玲ちゃんが到着したんだよ」
一瞬言葉に詰まった瑞希を気遣うように、代わりに蓮が続けた。
「間一髪ってとこだったよ。あれ、完全に憑かれてたら親父呼ばないといけないとこだった」
「そうでしたか。いつの間にか蓮さんがいなくなってしまって、見つけたと思ったら瑞希さんと【影】がいるでしょう? 驚きました」
「廊下で瑞希ちゃんがゴミ箱持って、よたよた歩いて行くのが見えたから、手伝おうと思って。急いで後追ったの」
「しかし、蓮さん。いなくなるならなるで、一声掛けて欲しいものでした。心配しましたよ」
「ん。ごめん」
微笑む玲に、蓮はしゅんとしたように頭を下げた。
「では、瑞希さん。ゴミを捨てて教室戻りましょうか」
玲はにっこりと瑞希に笑い掛けると、ゴミ箱を持ち上げて中身を焼却炉に空けた。そして、空になったゴミ箱を当然のように持って歩き出す。
「白糸先輩、私、自分で持ちますから!」
「あ、瑞希さん」
瑞希は強引に玲からゴミ箱を奪い取ると、軽くなったそれを片手に持って歩き出した。
「あ! 何あれ!」
瑞希が数歩歩いたところで、急に蓮が叫ぶ。また【影】が出現したと思った瑞希と玲は、蓮の指さす方を咄嗟に見てしまった。
『何も無いですよ?』
期せず、答えた瑞希と玲の声が重なる。
「スキあり」
蓮はそう言うと、瑞希の持っているゴミ箱をヒョイと奪い取った。
「あ……!」
空になった手を見つめる瑞希の前で、蓮は満足そうに少しだけ表情を緩めた。
「蓮さん、今のは無いんじゃないですか?」
「引っ掛かる人が悪いんだよ」
溜め息交じりに抗議の声を上げた玲に、蓮は悪びれる事なく言った。
「ふむ、そうですか……」
玲は少し考えた後、蓮に足払いをする。蓮は転びはしなかったものの、大きくたたらを踏んだ。
「わっとと……! 危ないな!」
抗議の声を上げた蓮の手の中に、既にゴミ箱は無い。
「あれ……?」
「スキあり、ですね」
不敵に微笑む玲の手の中には、蓮から奪い取ったゴミ箱があった。
「玲ちゃん、今のはヒドイよ!」
「いえいえ、蓮さん程、悪質ではないですよ?」
「いや、玲ちゃんの方が悪質だよ! 僕、手は出してないもん!」
「私が出したのは足です。それに、人を騙すような事をする人に非難されるいわれはありません」
ゴミ箱の取り合いで火花を散らし始めた二人を遠巻きに眺めていた瑞希は、ゴミ箱を持つ玲にそっと近づいた。瑞希の行動に気が付いていないのか、二人はにらみ合ったままだ。
――今だ!
『あ!』
瑞希にゴミ箱を取られ、玲と蓮の驚きの声が重なる。
「ス、スキありです……!」
瑞希はそう宣言すると、ゴミ箱を両手で抱え込んで歩き出した。
「やられた」
「やられましたね」
蓮と玲は苦笑すると、二人並んで瑞希の後を付いて来た。
「あの――」
「ああ、僕たちの事は気にしないで」
瑞希が「ひとりで大丈夫だ」と述べるより先に、蓮が口を開いた。
「でも……」
瑞希が反論を述べたくなるのも無理は無かった。ゴミ箱を大事そうに抱えて歩く少女の後ろを長身の男二人が付いて来るという、傍から見ると何とも奇妙な光景が出来上がっていた。廊下ですれ違う生徒達が、瑞希達三人を驚いた表情で見ている。
「また【影】が現れたら大変でしょう? 瑞希さんの警棒、教室に置いてあるんですから」
そう言う玲の目線は、瑞希の持つゴミ箱に向いている。瑞希が隙を見せればすかさず奪い取るつもりらしい。蓮も同様に、瑞希の腕の中のゴミ箱を見ていた。玲と蓮の行動を警戒した瑞希は、ギュッとゴミ箱を抱きしめた。
「その様に大事そうに抱えなくても、誰も取ったりしませんよ?」
「うんうん、誰も取らないよ。制服、汚れちゃうよ?」
「スキをみてゴミ箱取ろうとしている人が、私の目の前にいますから!」
瑞希はくるっと振り返り、目線をゴミ箱に向けたまま微笑む玲と蓮に頬を膨らませて抗議した。そして、教室に向かって再び歩き出す。
「実に可愛らしい反応ですね」
「うん」
玲と蓮の声が瑞希の耳に入り、瑞希は恥ずかしさのあまり駆け出したくなった。しかし、瑞希が走り出せば二人も面白がって追い掛けて来る事は明らかだった。瑞希は冷静である事を装いつつ、黙々と歩を進めた。
ざわざわと騒がしい廊下を抜け、瑞希はやっとの思いで教室までたどり着いた。その胸には、ちゃんと玲と蓮から死守したゴミ箱が抱えられている。
「瑞希ちゃん、お帰り。随分遅かったね」
「ちょっと道、間違えちゃって……。遅くなってごめんね」
駆け寄って来た香織に、瑞希は適当に言い訳をすると、ゴミ箱を教室の隅、所定の位置に置いた。
「瑞希ちゃん! グッジョブ!」
そう叫んだ香織は、瑞希に向かって親指を立てた。香織が何の事を言っているのか分からず、瑞希は怪訝そうに香織を見た。すると、香織は頬を赤く染め、目をキラキラさせながら廊下を見ている。他の女子生徒も香織と同じように頬を赤く染め、キラキラした眼差しで廊下を見ていた。その視線の先には、瑞希が教室から出てくのを待っている玲と蓮がいる。女生徒達の反応を見る限り、玲と蓮に教室まで付いて来てもらったのは、あながち間違いではなかったらしい。
「じゃあ、みんなごめんね。また明日」
机の脇に掛けてあった鞄を取り、瑞希はクラスメイト達にぺこりとお辞儀をすると、廊下で待っている玲と蓮の元へ走った。
『瑞希ちゃ~ん! ありがとぉ! また明日ねぇ!』
『蘇芳さ~ん! 気を付けてね~! また明日ぁ!』
いつもよりオクターブ高い女生徒の声と、野太い男子生徒の声に送られ、瑞希は気恥ずかしさのあまり頬を赤く染めた。
「瑞希さん、仲の良いお友達がたくさん出来たようですね」
そう言った玲は満足そうに笑っていた。玲の隣では、蓮が声を押し殺して笑っている。
――あれは私の人気ではありません……。特に前半部分……。
玲があまりにも嬉しそうな声をしていた為、瑞希は誤魔化すように曖昧な笑みを浮かべた。




