6月△日 1
昨日、瑞希が部屋に戻ると、上月から特待生の早朝ミーティングを行うという旨の連絡がメールで入っていた。その為、今日は特待生全員で一時間程早く登校することになった。
理事長室へ入ると、上月と市田が既に待っていた。特待生全員が来ている事を確認した上月が口を開く。
「早朝からご苦労様です。皆さんを呼んだのは言うまでもありませんが、真田君の件です。昨日、病院で医師から説明を聞いてきましたので報告します」
上月は特待生全員の表情を確認するように見回した。
「まず、怪我の状況ですが、骨折が肋骨を含めて数か所あるそうです。一番酷かった足首、正確には脛らしいですが、そこの開放骨折は昨日緊急手術を行いました。左腕と右指の骨にも骨折が認められましたが、ヒビが入っているだけなので手術の必要は無いそうです。そして、内臓に関してですが、重篤な損傷は無いとの事でした。これは不幸中の幸いですね」
淡々と説明する上月だったが、その眉間には皺が寄っている。
「ただ、意識は依然として戻っていません。頭部に裂傷があるそうで、本日脳波検査をするそうですが、昨日撮ったCTで脳への損傷は認められていないとの事です。足からの出血が相当量あったとの事でしたので、意識が戻らないのはこちらが原因ではないかとの事です。容体自体は、現在安定しているそうです」
上月の説明を聞いた瑞希が蓮の顔色をそっと窺うと、蓮はいつもの飄々とした雰囲気は無く、無表情に上月の話を聞いていた。
「真田君の意識が戻り次第、学校にも連絡を頂ける事になっています」
上月は説明し終わると市田に視線を送った。
「分かった」
市田は溜め息交じりに言った。市田はどこか疲れ切った表情をし、普段の若々しさが鳴りを潜めている。
「廃ビルの調査は、特定現象調査室の職員に引き継ぐことにした。すぐには動けないそうだが、今調査している案件が終わり次第調査に入るそうだ。昨日も言ったが、単独行動は厳禁とする。外出も出来る限り控えるように。蓮は、玲、瑞希君と行動を共にする事。良いな?」
『分かりました』
全員が答えた事を確認した市田は、ミーティングの終了を告げた。
理事長室を出ると、蓮は一言も発せず、ずんずんと先に歩いて行ってしまった。普段とは異なる行動に、瑞希の不安が大きくなる。
「あの、三井先輩……」
瑞希がたまらず呼びかけるも、蓮の耳には届いていないようだった。
「蓮さん、相当参ってるみたいっすね」
そんな蓮の様子を見ていた裕太が、蓮の去っていた方向を見つめながら、隣に立つ玲に言った。
「ええ。どうしたものですかね……」
玲が困ったような表情でそれに頷く。
「本当に。大丈夫かしら」
慧子も蓮の去った方を、心配そうに見つめていた。
「普段はあんなですが、責任感が人一倍強いですし、今回の事には責任を感じているのでしょう。それに、真一さんは蓮さんにとって特別ですし」
「特別……」
瑞希が呟くと、玲は振り返って瑞希に微笑みかけた。
「ええ。蓮さんは末っ子だからでしょうかね、真一さんの事は実の弟のように可愛がっていますから。いつか瑞希さんもおっしゃっていたでしょう? 仲の良い兄弟のようだって」
「確かにあの二人はパートナーつーより、仲の良い兄弟って言った方がしっくりきますよね」
玲の言葉に、裕太が納得顔で頷いた。
「蓮さんをひとりにするのも心配ですし、申し訳ありませんが私は蓮さんを追いますね」
玲は一方的に宣言すると、蓮の後を追って駆け出した。瑞希も一瞬、玲と共に後を追おうとも思ったが、行って蓮に何をしてあげられるのだろうと、思い留まった。瑞希を無力感が苛み、唇を噛んだ。
「しゃーねー。俺らも教室行くか。いつまでもそんな湿気た面してんな」
溜め息交じりに呟いた裕太が、瑞希の頭をぐりぐりとかき混ぜた。
「ちょ、伊勢先輩。やめて下さい」
瑞希の非難を無視し、裕太は尚も瑞希の頭をぐりぐりとかき混ぜる。暫くして、裕太が手を離した瑞希の頭は、髪の毛が絡み合い、見事にクモの巣状になっていた。頭が悲惨な状況になった事に気が付いた瑞希が涙目になる。その様子を見て、慧子が可笑しそうに笑った。




