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5月▲日 1

 期末テストの最終日。最後の科目は瑞希の苦手な数学だった。しかし、玲のスパルタと蓮の励ましのお蔭で、今回一番自信がある科目になっていた。瑞希は気合を入れ、答案用紙に向き合った。


 テスト終了のチャイムが響き渡り、後ろから答案を前に回すようにテスト監督の教師から指示が出された。一番後ろの瑞希が答案を前の香織に回すと、香織がそれを受け取り自分の答案を上に乗せて前に回す。受け取ったクラスメイトが答案を乗せてまた前に渡す。そんな光景をボーと眺めていた瑞希の方へ香織が満面の笑みで振り返った。


「瑞希ちゃん、テストどうだった?」


「あ、うん。やりきったなって感じ……」


「そうなんだ。自信あり?」


「まあまあ、かな?」


 いつもなら、瑞希にとってテスト返却は不安でストレスのかかるものでしかなかったが、今回に限っては点数が楽しみな教科がいくつもあった。先ほどまで解いていた数学のテストもそのうちの一つだ。


「はっ! あれだけ玲君と蓮に手間かけさせれば、どんな馬鹿だって点数良くなるだろ」


 隣から聞こえた真一の嘲笑交じりの声に、瑞希は頬を膨らませた。


「もしかして、瑞希ちゃんってば白糸先輩と三井先輩に勉強教えてもらってたの? 羨ましい~! 私も白糸先輩に優しく教えてもらいた~い!」


 そう言った香織はうっとりとした表情で、乙女チックなポーズをとっている。「白糸先輩は全然優しくない!」と瑞希は心の中で力一杯叫んだが、香織の夢を壊すのも悪いと思い、曖昧な笑みを浮かべた。


――多少変なところがあるけど、三井先輩の方が優しいのに。知らないって幸せだな……。


「知らないって幸せだな……」


 真一はそう言って瑞希の心を代弁したセリフを吐くと、口の端を少し釣り上げた笑みを見せた。


『え……?』


「んじゃ、お先」


 戸惑う瑞希と香織に、真一は後ろ向きに手を振ると教室を後にした。


「何、あれ?」


「さ、さあ……?」


 香織の問いかけに瑞希は曖昧に返事をしたが、心の中では「代弁してくれてありがとう」と真一に礼を言っていた。


「でもさ、あいつ雰囲気変わったよね。やっとクラスに馴染んできた感じ? 特に瑞希ちゃんへの態度はかなり軟化してるよね」


「真田君にも勉強、教えてもらったから」


 瑞希は照れたような笑みを浮かべた。


「怪しいぃ~! もしかして、瑞希ちゃんの本命は真田?」


「ちち、ちがうもん!」


 瑞希は椅子から立ち上がり、力一杯香織の言葉を否定した。


「ふ~ん。どうでもいいけど、みんな見てるよ?」


 ニヤニヤしながら言った香織の言葉に、瑞希が周りを見渡すと殆どのクラスメイトが驚いたような顔で瑞希を見ていた。瑞希は恥ずかしさのあまり頬を染めて椅子に座り直した。


「ま、あいつ、もてるみたいだから。早く唾つけとかないと誰かに取られちゃうぞ~?」


 香織は尚もニヤニヤしている。


「だから! そんな関係じゃないの!」


「ムキになるところがますます怪しい~!」


 香織はこの年代にありがちな、恋愛話大好き人間だった。本人は楽しんでいるのだろうが、ターゲットになる方は堪ったものでは無いと、瑞希はこっそりと溜め息を吐いた。

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