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5月×日

 次の日、訓練が終わった瑞希は、夕食を食べながら数学の問題に取り組んでいた。昨日、蓮に教えてもらった内容は理解できたが、数学のテスト範囲はそこだけではない。昨日とは別の範囲に取り組んでいた瑞希だったが、夕食を食べ終わった頃にはいくつか分からない問題があった。


「はぁ。今日は数学だけじゃなくて生物も勉強したいのに……」


 瑞希は問題集を見つめながら、ポツリと独り言を言った。


「今日は生物も勉強するの? 僕、生物も得意だよ! 手取り足取り教えたげる!」


 突然掛けられた声に瑞希はビクッと体を震わせると、恐る恐る顔を上げた。すると、瑞希の座っているテーブルの前にしゃがみ込んだ蓮が満面の笑みを浮かべていた。


「あ、あの、三井先輩。いつからそこに?」


「えっとね~。ご飯がまだ半分くらい残ってた時からずっといたよ」


 驚く瑞希とは対照的に、蓮はニコニコと満足そうな顔をしている。何故声を掛けてくれないのかと、瑞希は小さく溜息を吐いた。


「食器、片づけてきますね」


 瑞希は蓮に脱力気味に声を掛けると、空になった食器を持ってカウンターへ歩いて行った。


「マロンさん、ご馳走様でした」


「お粗末様でした」


 瑞希がマロンに食器を手渡すと、マロンは満面の笑みでそれを受け取った。


「今日もご飯美味しかったです」


「瑞希ちゃんはいつも残さず食べてくれるから作り甲斐があるわ。瑞希ちゃん。これ、みんなで飲んでね。牛乳は真一君の分だから」


「あ、はい」


 瑞希がマロンから受け取ったトレーにはコーヒーが五杯と牛乳が一杯乗っている。飲み物が六杯もある事を訝しく思いつつ、トレーを手に瑞希が席に戻ると、蓮、玲、真一、裕太、慧子が椅子に座って待っていた。全員が勉強しやすいように、テーブルが三つ付けてあった。玲と真一は分かるが、裕太と慧子までもが来ていることに多少驚きつつ、瑞希は全員に飲み物を配った。


「あの、眞鍋先輩と伊勢先輩もテスト勉強ですか?」


「まあ、そんなところかしら?」


「俺は面白いもの見たさ」


 瑞希の問いに答えた慧子と裕太はニヤニヤとした笑みを浮かべていた。瑞希は慧子と裕太が何を期待しているのか察し、一抹の不安を覚えつつ、数学の問題集の続きを解き始めた。




瑞希日記


5月×日(水)


 お父さん、お母さん、今日から特待生のみんなでテスト勉強を始めました。皆というのは、もちろん眞鍋先輩と伊勢先輩も含まれています。昨日は参加すると言っていなかったお二人が参加していた事に少し驚きましたが、伊勢先輩が面白いもの見たさと言っていましたので、勉強よりも私が巻き込まれるじゃれ合いを期待していたみたいです。しかし、三井先輩も白糸先輩も今日は真面目に勉強に取り組んでいて、一番の不安要素だったじゃれ合いに巻き込まれるという事態にはなりませんでした。明日もこの調子でいけば、とっても勉強が捗りそうです。


 三井先輩はとても優しく勉強を教えてくれました。質問した問題の類題を解ける度に褒めてくれるので、もっと頑張ろうという気になりました。また、私の手が止まっている事にいち早く気が付くのは三井先輩でした。私の手が止まるたびに「大丈夫?」と声をかけてくれました。正直、三井先輩のテスト勉強が捗らない気がします。何だか申し訳ない気がします。こういう場合って、勉強会を辞退して、自分の部屋で勉強した方が良いのでしょうか? お父さん、お母さん、どう思います?


 白糸先輩は分からない問題を丁寧に解説してくれましたが、質問した問題の類題を十問解かされます。勉強にはとても厳しいです。手を休める暇もありません。類題を解いている最中に手が止まると、追加で五問解かされます。スパルタです。経験を積んで苦手克服出来るのは良いのですが、手が腱鞘炎になりそうです。でも、「あなたの為ですから」と言われると問題を解くのが嫌とは言えませんよね。やる気の無い伊勢先輩には無言の圧力を使っていましたし、何だか教育熱心なお父さん的な立ち位置でした。


 眞鍋先輩と真田君は勉強が得意みたいです。眞鍋先輩はきちんと授業を聞いていそうなので分かりますが、真田君は授業中寝てばかりいるのに不公平な気がします。二人とも、分からない問題を三井先輩や白糸先輩に解説してもらうとすぐに理解出来るみたいで、白糸先輩の類題地獄にはまる事も一、二回しかありませんでした。私と伊勢先輩ばかり類題地獄にはまっていて、本当に不公平です。


 勉強を教えてくれている三井先輩と白糸先輩の期待に添えるよう、この後少し勉強してから寝ます。お父さん、お母さん、お休みなさい。




玲日記


5月×日(水) 曇り


 今日から皆で勉強会を始めました。今日は蓮さんのセクハラは無く、無事に勉強会を終わらせる事が出来ました。蓮さんは瑞希さんの手が止まると水を得た魚のように生き生きとしていました。真面目に教えていたようですし、このままいけば蓮さんを締め落とす事も無いでしょう。少し残念な気がしますが、蓮さんのやる気が出るのは良い事ですので、様子を見守りたいと思います。まあ、私としては本気を出して欲しいのですが、あの人の性格を考えると期待するだけ無駄でしょうね……。




蓮日記


5月×日(水)


 今日はみんなで勉強会をしました。そう、みんなで。裕ちゃんと慧子ちゃんが来た時にはびっくりしました。瑞希ちゃんと玲ちゃんと真ちゃんも驚いていたみたいです。瑞希ちゃんが一番表情に出ていたかな? 感情が表に出るタイプなので、表情がクルクル変わって本当に可愛いです。初めのうちは緊張のせいで表情があまり変わらなかったから真ちゃんタイプかなって思っていたけど、最近は打ち解けてきてくれたお蔭で表情から感情がすぐに読み取れます。大分親しくなれたのかなとも思いますが、瑞希ちゃんは人間関係に壁を築いてしまうタイプみたいなので、ちょっと心配な面もあります。【影】駆除する時、パートナーとの信頼関係って大事なんだけどな。背中を預けられるって、相当信頼していないと出来ないけど、玲ちゃんも瑞希ちゃんも大丈夫かな……。


 きっと瑞希ちゃんは自覚していないんだろうけど、みんなの呼び方が余所余所しいです。せめて慧子ちゃんだけでも「眞鍋先輩」じゃなくて「慧子先輩」って呼べば良いのにって常々思っています。慧子ちゃん絶対喜ぶのに。みんな、お互いに下の名前で呼んでいるの気が付いて無いのかな? 僕としても「蓮先輩」って瑞希ちゃんに呼ばれたい。瑞希ちゃんの声で「蓮先輩」か……。想像したら今夜も眠れなくなりそうです。

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