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4月■日 1

 次の日、瑞希は市田に言われた通りの時間に射撃場に来ていた。勿論、昨日渡された銃も忘れていない。


 訓練では初めて入る射撃場に緊張しつつ裕太を待っていると、射撃場の扉が開く音がした。瑞希が振り向くと、裕太と慧子が丁度扉から入ってくるところだった。心なしか、裕太の顔が不機嫌そうだ。


「あの、眞鍋先輩も射撃訓練されるんですか?」


「ふふふ」


 慧子は不機嫌そうな裕太とは対照的に、機嫌良さそうに笑った。


「こいつはお前の訓練の立合いをするんだと!」


 ニコニコしている慧子を横目で睨みながら、裕太は瑞希の問いに答えた。そして、射撃場の隅に置いてある棚からゴーグル二個とヘッドホン三個を取り出した。


「立会い、ですか……?」


「ああ。これ付けとけ」


 瑞希がおうむ返しに問うと、裕太が頷きながらゴーグルとヘッドホンを瑞希に手渡した。


「裕太は短気だからね。瑞希ちゃんに酷い事言ったら私が怒ってあげるから」


 裕太からヘッドホンを受け取りつつ、慧子がにんまりと笑った。


「お前はただ俺を怒ってストレス発散したいだけだろ……」


「それは私に怒られる事をするつもりだって、暗に認めてるの?」


 ため息交じりに言う裕太に、慧子はフフンと鼻で笑った。


「俺は市田さんにこいつの訓練してくれって頼まれたの! いじめるつもりは無いんだから、お前はとっとと学校行く準備しろよ!」


「あら、学校に行く準備なら出来てるわよ?」


 裕太が苛立ったように声を張り上げると、慧子は手に持った鞄を裕太に掲げ、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


「だったら、とっとと飯食って学校行け!」


「まだ早すぎじゃない? 今から行っても門も開いていないわね」


「んなこと俺が知るか!」


 尚も怒鳴る裕太に、慧子は不敵に笑った。


「……仲、良いですね」


『仲良くない!』


 二人のやり取りを聞いていた瑞希が呆れたように呟くと、裕太と慧子の声が見事にハモった。あまりの見事さに、瑞希は思わず感動すら覚えていた。


「お前、何ニヤニヤしてんだ! とっとと訓練始めるぞ!」


「は、はい!」


 見事なハモリに感動していた瑞希は、本日一番の裕太の大声にビクッと体を震わせ、背筋をピンと伸ばし、慌てて返事をした。


「まずは手本な。弾をここに入れて、こう構えて的を狙う。んで、弾と撃鉄に霊力を込めて引き金を引く。扱いはそんなに難しくないはずだ」


 裕太はそう言うと、引き金を引いた。パンという乾いた音が響き渡る。ヘッドホンを付けていなければ、閉鎖空間では耳がキーンとなりそうだなと、瑞希は改めてヘッドホンの意味を理解した。裕太の撃ったペイント弾は見事に的の中心近くに赤い跡をつけていた。


「んじゃ、お前もやってみな」


「はい」


 瑞希はごくりと唾を飲んだ。慎重に照準を合わせるも、手が思った以上に震えている。瑞希は大きく深呼吸をし、照準を合わせるとともに撃鉄と弾に霊力を込めた。撃鉄がピンクに光る事は無く、小さく首を傾げた瑞希は更に霊力を込め、引き金を引いた。ズドンと思った以上に大きな音がし、衝撃で手が痺れる。


「おま……!」


 裕太が口をあんぐりと開けて的を見ていた。裕太の隣では慧子も口を開けて呆けている。


「どんだけ霊力込めてんだ! ペイント弾の意味、ねーじゃねーか!」


「え……? だって光らないから……」


「こんな小さいもんに霊力込めても光らねーよ!」


「そう、なんですか……?」


「それくらいちょっと考えて分かれ!」


「うう……すみません……」


 瑞希は裕太に頭を下げた。慧子が慰めるように瑞希の肩をポンポンと軽く叩いた。


「まあまあ。初めてなら誰にでも失敗はあるでしょう?」


「失敗のレベルが桁違いなんだよ。的壊してどうすんだ……。新しい的に変えるから、お前らも手伝え」


「はい……」


 瑞希は項垂れたまま的に近づいた。ベニヤ板で出来ているであろう的の中央よりやや右側に見事に弾が貫通した跡がある。


「ちゃんと的には当たってんだな」


 裕太が感心したように瑞希の開けた穴を見ていた。


「次は穴、開けんなよ」


「はい……」


「裕太」


 溜息を吐きながら的を取り外している裕太を慧子が手招きした。心なしか慧子の表情が引きつっている。


「んだよ?」


「これ見て……」


 慧子の指さすものを見て裕太の表情も引きつった。瑞希も裕太の後ろから慧子の指さすものを覗き込んだ。そこには小さな穴があった。そう、コンクリートの壁に。


「…………」


「…………」


「…………どうすんだ、これ?」


 沈黙を破ったのは裕太だった。表情はさらに複雑なものになっている。


「と、取りあえず、後でマロンさんに報告しないといけないわね……」


「だよな……」


『はあ……』


「すみません。すみません」


 深刻そうな表情で溜息を吐いた裕太と慧子に、瑞希は何度も頭を下げた。まさか霊力を込めすぎて壁に穴を開けてしまうとは思っていなかった。市田は霊力を込めたものの耐久性が上がると言っていたのだから、こんな事態も想定しなければならなかったと、瑞希は深く反省をした。


「お前はさっきの百分の一くらいの霊力込めて撃て。じゃないと壁が穴だらけになる」


「はい。分かりました」


「気を取り直して続きやるぞ」


「はい!」


 この後、瑞希は壁に三か所の穴を追加した。その度に裕太に怒鳴られるのではないかとビクビクした瑞希だったが、裕太は根気よく霊力の調整について瑞希に説明をした。そんな二人を微笑みながら慧子が見つめていたが、当の瑞希と裕太はどうしたら壁に穴を増やさないで済むか試行錯誤していて気が付いていなかった。

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