シャリシャリシャリ……シャリシャリシャリ……
シャリシャリシャリ……シャリシャリシャリ……
ふと、夜中に目が覚めた。
何か奇妙な音が聞こえたからだ。
何の音だろう。耳を澄ましてみる。
シャリシャリシャリ……シャリシャリシャリ……
やはり、聞こえる。何の音だろう。
「姉さん、何の音だろうね」
二段ベッドの上で姉に問いかけるが返事は返ってこない。当たり前か。こんな夜中に姉が起きてるわけはない。
シャリシャリシャリ……シャリシャリシャリ……
音はまだ聞こえている。
どこから聞こえてくる音だろう。
家の中からではない。外からだ。
私の家のすぐ外には共同墓地があり、毎日とは言わないがよく埋葬者が墓地の新たな住人を連れてく
る。
シャリシャリシャリシャリ……シャリシャリシャリ……
やはり、音は外、それも墓地の方から聞こえてくるようだ。
こんな時間に誰が?
しかも、この音は土を掘る音ではない。何かを擦り合わせるような音にも聞こえる。
「姉さん、姉さん」
少し強めに姉に問いかけるが、姉は返事を返さない。
「姉さん?」
普段は少し呼びかければ起きてくるはずなのにと、姉の様子を見に梯子に足を掛けてベッドの上段を覗く。
そこには姉はいなかった。
「姉さん!?」
驚きで口が塞がらない。姉はどこに行ったのだろう。
私は直観的にこの音と消えた姉は何か繋がりがあると思った。それならば、姉は外にいるはず。私は家
を出た。
私の家を含めて民家はまばらにしか存在しない。どこの明かりは消えている。当たり前か。真夜中だからかシャリシャリとした音がよく聞こえる。
その音が共同墓地から聞こえるのは間違えようがなかった。
昼間の墓地と違って夜の墓地は只々静かだった。それにどこか幻想めいた雰囲気さえ漂っているようにも思える。こんな墓地を私は知らなかった。
シャリシャリシャリ……シャリシャリシャリ……
進むたびに音が強くなってきている。
姉はどこだろう。
そう思ってから数分が過ぎたとき、私は一つの墓の前でこちらに背を向けて座り込んでいる姉を見つけた。
「姉さん?」
私の声が震えている。
いつも見ている姉の背中とは思えなかったからだ。
それに姉の傍らには棺が見える。
「あら、こんなところにどうしたの?」
姉が言った。それも何がおかしいのかと問いかけるように。
そして――
シャリシャリシャリ……シャリシャリシャリ……
また音がした。それも姉の方からだ。
ようやく、私は理解した。姉が何かを食べている音だ。
「姉さん、何を食べているの?」
無意味な質問だ。私には何を食べているのか既にわかっている。姉の傍らにある棺が開け放たれてい
る。そこに遺体の骨はなく……
「あなたも食べてみる?」
振り返りながら姉が言った。その表情は恍惚としていて目の焦点が合っていない。そして、口からは白
くかたいものが見える。骨だった。
私は姉の異常な姿に恐怖を覚えたが、その一方で姉が口にしている骨が酷く愛おしいものに思えた。異
常だった。そう思えてしまったことが異常だった。
「……うん」
私は姉の申し出に答え、骨を受け取った。
そして、白くてかたい骨を歯で――
シャリシャリシャリ……シャリシャリシャリ……