闇の生徒たち
グランドフォール学園の校庭。
怪物が消えたあと、石畳の広場には静かな風が吹いていた。
さっきまでの戦闘の跡が残っている。
割れた地面。
焦げた石。
まだ消えきらない光の粒。
生徒たちは少しずつ変身を解き、元の姿に戻り始めていた。
校庭の中央では、ノエリアがまだ剣を握ったまま立っている。
ハイジがその隣で腕を組んでいた。
「初戦闘であれはやばいな」
ハイジは軽く笑う。
「ゼロって嘘じゃね?」
ノエリアは困った顔をする。
「で、でも……私、まだ何も……」
その言葉を遮るように、フィアが優しく言う。
「ううん」
フィアはノエリアの剣を見つめた。
水色の瞳が少しだけ輝く。
「ちゃんと光ってたよ」
ダニーも近づいてくる。
「うんうん!」
ダニーは大げさに頷く。
「めっちゃ光ってた!」
その横で、ジェイドが静かに怪物が消えた場所を見ていた。
石畳の中央には、黒い跡が残っている。
ジェイドが低く呟く。
「妙だ」
ハイジが振り向く。
「何が?」
ジェイドはその跡を指さす。
「闇の濃度が強すぎる」
少し間を置いて言う。
「自然発生じゃない」
その言葉を聞いたときだった。
「その通りよ」
静かな声が校庭に響いた。
全員が振り向く。
校庭の入り口。
大きな門の影から、一人の少女が歩いてくる。
長い金色の髪。
赤い制服。
生徒会長――エイミーだ。
エイミーはゆっくりと石畳を歩く。
足音が静かに響く。
彼女は黒い跡を見下ろした。
「これは“召喚型”の怪物」
ハイジが眉をひそめる。
「召喚?」
エイミーはうなずいた。
「誰かが作ったということ」
校庭に、少し重たい空気が流れた。
ダニーが言う。
「え、それって……」
ジェイドが続ける。
「敵の生徒」
エイミーは静かに言った。
「ええ」
そのときだった。
遠くの空。
学園の外の森の方から、黒い霧がゆっくりと立ち上っている。
まるで、誰かがそこにいるみたいに。
ノエリアは胸を押さえた。
(また……)
胸の奥がざわつく。
その霧の向こう。
深い森の中。
誰かが立っていた。
黒いマントの少年。
青い髪。
キースだ。
彼は学園の方を見ながら、小さく笑った。
「へぇ」
その隣には、小さな少女が座っている。
ピンクのロリ服のようなドレス。
カリンだ。
カリンは楽しそうに言った。
「今の見た?」
キースが肩をすくめる。
「見た」
カリンはくすくす笑う。
「ゼロの子」
その目が楽しそうに細くなる。
「面白いじゃん」
キースは森の奥をちらっと見る。
そこにはもう一人、影が立っていた。
背の高い女性。
長い黒いコート。
エスターだ。
エスターは静かに学園を見つめている。
その瞳は冷たい。
そして、どこか悲しい。
カリンが振り向く。
「エスター」
無邪気な声。
「どう思う?」
エスターはしばらく何も言わなかった。
ただ遠くの学園を見ていた。
そして、静かに言う。
「……まだ」
少しだけ目を細める。
「未熟ね」
森の風が吹いた。
その風の向こう。
グランドフォール学園では、まだ誰も知らなかった。
この戦いが――
ただの始まりだということを。




