ゼロの一撃
グランドフォール学園の校庭。
白い石畳が敷き詰められた広い広場の中央に、黒い怪物が立っていた。
周囲には、リミィジュへ変身した生徒たちが円を描くように広がっている。
空にはまだ昼の光が残っているのに、怪物の周囲だけ空気が重い。
黒い煙のような闇が、ゆらゆらと揺れていた。
怪物が唸る。
低く、地面を震わせる声。
「グォォォ……!」
怪物の体は、さっきの攻撃であちこち裂けていた。
炎で焼けた跡。
水色の光で凍りついた腕。
そして――
ピンクの光で切り裂かれた胸。
怪物はまだ動いている。
でも、弱っているのは誰の目にも明らかだった。
校庭の端で、ハイジが腕を組む。
赤い炎がまだ足元に揺れている。
ハイジはノエリアを見ながら言った。
「ノエリア」
少しだけ顎で怪物を指す。
「最後、行け」
ノエリアは驚いた。
「え……?」
少し離れた位置で、フィアが柔らかく笑う。
水色の光が、彼女の周りに小さな泡のように浮かんでいた。
フィアは優しい声で言う。
「ノエリアちゃんの攻撃、一番効いてたよ」
その隣で、青髪の少年――ダニーが元気よく言う。
「そうそう!」
ダニーは拳をぐっと握る。
「さっきの一撃、めっちゃカッコよかった!」
屋上の影から飛び降りてきたジェイドは、怪物を静かに見つめたまま言った。
「闇の核が露出している」
ジェイドはノエリアの剣を見る。
「君の剣なら届く」
ノエリアの胸が少しだけ熱くなる。
(私が……?)
周囲を見る。
校庭のあちこちで、リミィジュたちが戦闘の体勢を取っている。
みんな、自信に満ちた顔をしている。
誰かを守るために立っている顔。
(これが……)
ノエリアの胸の奥で、ずっと憧れていた光景。
リミィジュ。
その一人として、今ここにいる。
ハイジが少しだけ笑う。
「行けって」
ハイジは炎のついた足で地面を軽く蹴る。
「怖いなら、私たちが後ろいる」
フィアもゆっくりうなずく。
「うん」
水色の光がふわりと広がる。
「大丈夫」
ノエリアは剣を見下ろした。
大きな剣。
普通の人なら持つだけでも重そうな武器。
でも今は、不思議と軽い。
(……ベル)
胸の奥に、懐かしい気配を感じる。
声は聞こえない。
でも、確かにそこにいる。
ノエリアは小さく息を吸った。
そして前へ踏み出す。
石畳の上を、ゆっくり歩く。
怪物がそれに気づいた。
赤い目がノエリアを捕える。
「グォォォ!」
怪物が腕を振り上げる。
その瞬間――
「フィア!」
ハイジが叫ぶ。
フィアはすぐに両手を広げた。
「任せて」
水色のリングが空中に広がる。
光の壁が、怪物の腕を包み込んだ。
「今だよ、ノエリアちゃん!」
フィアの声が響く。
ノエリアは地面を蹴った。
一気に怪物へ駆ける。
(怖い)
心臓が速くなる。
(でも――)
足は止まらない。
怪物の胸の奥。
黒い光が脈打っている。
そこが核。
ジェイドが言っていた場所。
ノエリアは剣を大きく振り上げた。
ピンクの光が剣に集まる。
空気がきらきらと輝き始めた。
綿菓子みたいな柔らかい光の粒が、空中に舞う。
ハイジが思わず呟く。
「……すげぇな」
ダニーが目を丸くする。
「なんだあの光」
ノエリアは叫んだ。
「――いけぇぇ!!」
剣を振り下ろす。
ピンクの光が大きく弧を描いた。
ドォォン!!
巨大な衝撃。
怪物の胸に剣が突き刺さる。
黒い核が砕けた。
次の瞬間。
怪物の体が崩れ始めた。
黒い煙が一気に吹き出す。
「グァァァァ!!」
怪物の叫びが校庭に響く。
そして――
光が弾けた。
闇が霧のように消えていく。
静寂。
校庭に、風が吹いた。
ノエリアはその場に立ったまま、剣を握っていた。
心臓がまだドキドキしている。
ハイジが近づいてきた。
「やるじゃん」
そう言ってノエリアの肩を軽く叩く。
フィアもゆっくり歩いてきた。
「初戦闘なのにすごいよ」
ダニーが笑う。
「ゼロって嘘じゃない?」
ジェイドは静かに言った。
「……興味深い」
そのとき。
校庭の奥から、ゆっくりと歩いてくる人物がいた。
長い金色の髪。
赤い制服。
その場の空気が少しだけ変わる。
生徒会長――エイミーだ。
エイミーはノエリアをじっと見つめる。
静かな瞳。
そして小さく呟いた。
「……ゼロ、ね」
ノエリアの胸の奥で、光が微かに揺れた。
まるで誰かが笑ったみたいに。




