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適正値ゼロのリミィジュ  作者: 柑橘みかん


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残された火

衝撃の余波が、まだ空気に残っていた。


フィアの結界が、ゆっくりとほどけていく。


水色の光が粒になって消えていく。


ノエリアはその中で、地面に倒れたままだった。


息が浅い。


体が思うように動かない。


でも――意識はある。


視界の端で、光と影がまだぶつかっているのが見えた。


ハイジの炎が爆ぜる。


ジェイドの剣が閃く。


ダニーが立ち上がり、何度も拳を振るっている。


戦いは、終わっていない。


その中で。


一人だけ、動いていない存在がいた。


エスターだった。


静かに立っている。


まるで、戦場そのものを観察しているように。


誰も近づけない。


近づく意味がないと、本能で分かる。


そのとき、アンナの声が響いた。


「ここまでや!」


その声は、今までよりも強かった。


エイミーがすでに前に出ている。


剣を構え、エスターの前に立つ。


ウィリアムも左右を固める。


三人の空気が、はっきりと変わる。


“止める側”の覚悟だった。


エイミーが言う。


「これ以上は、させない」


エスターはその言葉を聞いて、わずかに目を細めた。


「……まだやるのね」


エイミーは一歩も引かない。


「当然よ」


その声に、迷いはなかった。


エスターは数秒だけ沈黙する。


そして、ほんの少しだけ息を吐いた。


「……今日はここまでにする」


その一言で、空気が変わる。


ハイジが顔を上げる。


「は?」


ダニーも叫ぶ。


「逃げんのかよ!」


エスターは視線すら向けない。


ただ、ノエリアを見る。


その目は静かだった。


「準備はできた」


小さく呟く。


その意味を理解できる者は、ほとんどいない。


だが、エイミーだけは分かっていた。


「……次は」


エイミーが低く言う。


エスターはわずかに頷く。


「ええ」


黒い霧が足元から広がる。


カリンが軽く手を振る。


「またねぇ」


その声はいつも通り軽い。


でも、その奥には何かがあった。


キースも何も言わず、霧の中へ消える。


怪物たちも、次々と霧に溶けていく。


最後に、エスターの姿が消える。


その瞬間。


圧が、消えた。


一気に。


空気が軽くなる。


ノエリアはその場で大きく息を吸った。


(……終わった)


いや、終わっていない。


“一区切り”だと、どこかで分かっていた。


そのとき、視界に影が差す。


フィアだった。


しゃがみ込んで、ノエリアを見ている。


「だいじょうぶ?」


その声は、いつも通りやわらかい。


ノエリアは少しだけ笑う。


「……うん」


声は弱い。


でも、ちゃんと出た。


フィアはほっとしたように息をつく。


そのまま、そっと手を差し出す。


ノエリアはその手を取る。


ゆっくりと、体を起こす。


足に力が入らない。


でも、倒れない。


フィアが支えてくれている。


「ありがとう」


小さく言う。


フィアは少しだけ笑う。


「どういたしましてぇ」


そのとき、後ろから足音が近づいてくる。


ダニーだった。


まだ息が荒い。


でも、さっきより顔が違う。


悔しさの中に、はっきりと火が残っている。


「……負けたな」


誰にともなく言う。


ハイジが鼻で笑う。


「当たり前だろ」


腕を回す。


「でも」


少しだけ口元を上げる。


「楽しかったな」


ジェイドは静かに頷く。


「収穫はあった」


その言葉に、ノエリアは少し顔を上げる。


ジェイドはノエリアを見る。


「お前だ」


ノエリアは一瞬、言葉を失う。


「……でも、全然だった」


ジェイドは首を横に振る。


「違う」


短く言う。


「届いていた」


その一言は、重かった。


ノエリアの胸に、静かに落ちる。


完全には届いていない。


でも。


“触れた”。


それが、確かにあった。


そのとき。


ゆっくりと足音が響く。


エイミーだった。


戦闘の緊張を残したまま、こちらに歩いてくる。


目は真っ直ぐノエリアを見ている。


「立てる?」


ノエリアは頷く。


「……はい」


エイミーは少しだけ近づく。


そして、静かに言う。


「あなた」


ほんのわずかに間を置く。


「選ばれているわね」


ノエリアの心臓が跳ねる。


言葉の意味は、はっきりしない。


でも――


重い。


エイミーは続ける。


「まだ未完成」


「でも」


視線を外さない。


「間違いなく、そこにいる」


その言葉は、断定だった。


ノエリアは何も言えない。


ただ、胸の奥が強く揺れる。


エイミーはそれ以上何も言わない。


背を向ける。


「準備しなさい」


一言だけ残して、去っていく。


その背中を、ノエリアは見ていた。


(……選ばれてる)


その言葉が、頭の中で繰り返される。


今まで、考えたこともなかった。


でも。


今日、確かに感じた。


あの光。


あの瞬間。


(私……)


手を握る。


さっきの感覚は、もうない。


でも、消えていない。


どこかに、残っている。


「……もう一回」


小さく呟く。


フィアが隣で聞いている。


ダニーも、ハイジも、ジェイドもいる。


一人じゃない。


でも。


これは、自分の戦いだ。


空を見上げる。


夜は静かだった。


けれど、その奥で。


確実に、次の戦いが待っている。


そして今度は――


“届かせにいく”戦いになる。

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