それでも進む
グランドフォール学園の外れ。
学園と森の境界には、小さな訓練用フィールドがあった。
草地の広場。
周囲には背の高い木が並び、風が葉を揺らしている。
ノエリアたちは訓練をしていた。
ハイジが腕を組む。
「今日は実戦形式だ」
ダニーが嬉しそうに言う。
「いいね!」
ジェイドは静かに立っていた。
「油断するな」
そのときだった。
森の奥から、声がした。
「楽しそうだね」
全員が振り向く。
木の枝の上。
カリンが座っていた。
足をぶらぶらさせている。
ピンクの髪が風で揺れた。
ダニーが驚く。
「また来た!」
ハイジが一歩前へ出る。
炎が足元に灯る。
「今度は逃がさない」
カリンはくすっと笑う。
「怖い怖い」
枝から軽く飛び降りた。
地面にふわっと着地する。
黒い霧が足元に広がった。
ノエリアの胸が少しざわつく。
(この子……)
カリンはノエリアを見る。
「今日も頑張ってる?」
からかうような声。
ノエリアは剣を握る。
「帰って」
カリンは首をかしげる。
「なんで?」
少し笑う。
「遊びに来ただけなのに」
そのとき。
フィアが前に出た。
「カリン」
優しい声。
カリンが目を細める。
「なに?」
フィアは真っ直ぐ言う。
「もうやめなよ」
森の風が止まる。
カリンは笑った。
「やめる?」
「何を?」
フィアは静かに言う。
「みんな傷つけること」
カリンの笑顔が少し変わる。
「……あは」
小さく笑う。
「優しいね」
ゆっくり歩き出す。
フィアの目の前まで来る。
「でもさ」
カリンの瞳が暗くなる。
「努力ってさ」
黒い霧が広がる。
「意味ないよ」
その瞬間。
地面から黒い怪物が現れた。
「グォォォ!!」
ダニーが叫ぶ。
「来た!」
ハイジが飛び出す。
「任せろ!」
炎の蹴り。
ドン!!
怪物がよろめく。
しかし次の瞬間。
もう一体現れた。
「え?」
ダニーが驚く。
三体。
四体。
黒い霧から怪物が次々出てくる。
ジェイドが冷静に言う。
「包囲される」
ハイジが叫ぶ。
「ノエリア!」
「後ろ守れ!」
ノエリアが頷く。
「うん!」
剣を構える。
だが。
一番前に立ったのはフィアだった。
水色の光が広がる。
結界。
「ここは」
フィアの声は静かだった。
「私がやる」
カリンが楽しそうに笑う。
「お」
「やる気?」
フィアは頷く。
「うん」
水色の光が強くなる。
「あなた」
カリンを見る。
「寂しいだけでしょ」
カリンの目が一瞬揺れた。
次の瞬間。
黒い霧が爆発する。
「黙れ!」
怪物が一斉に襲いかかる。
ハイジが炎を放つ。
「来い!」
ダニーが拳を振るう。
「うおお!」
ジェイドが剣を抜く。
銀の光が走る。
「右を削る」
三人の動きは速い。
しかし。
カリンは動かない。
ただフィアを見ていた。
フィアが両手を広げる。
水色の光が広場全体を包む。
怪物の動きが遅くなる。
ノエリアが叫ぶ。
「フィア!」
フィアが振り向く。
少し笑う。
「ノエリアちゃん」
「お願い」
ノエリアが頷く。
剣を握る。
まだ強くない。
でも。
走る。
怪物の間を抜ける。
ハイジが叫ぶ。
「今だ!」
炎が弾ける。
ジェイドが敵を弾く。
ダニーが押し返す。
道が開く。
ノエリアが怪物の核へ剣を振る。
ドォン!!
怪物が一体消える。
カリンはその様子を見ていた。
少しだけ驚いた顔。
「……へぇ」
フィアが言う。
「見た?」
カリンが目を細める。
フィアは静かに言った。
「努力って」
水色の光が揺れる。
「意味あるよ」
カリンはしばらく黙っていた。
そして。
小さく笑った。
「……やっぱり」
黒い霧が広がる。
「面白い」
カリンの体が霧に溶ける。
「また遊ぼう」
消える直前。
ノエリアを見る。
「ゼロの子」
森が静かになる。
怪物も消えていた。
ダニーが息を吐く。
「はぁ……」
ハイジが笑う。
「いい戦いだったな」
ジェイドはフィアを見る。
「今の結界」
「成長している」
フィアは少し照れる。
「えへへ」
ノエリアが笑った。
(みんな強い)
剣を握る。
(私も)
胸の奥の光が少しだけ揺れる。
『ノエリア』
ベルの声。
ノエリアは空を見る。
小さく言う。
「追いつく」
風が森を揺らした。




