ゼロの意地
怪物の腕が振り下ろされる。
「グォォォ!!」
巨大な影がノエリアに覆いかぶさった。
ノエリアは地面を蹴る。
横へ転がるように避けた。
ドォン!!
石畳が砕ける。
破片が空中に散った。
ハイジが叫ぶ。
「ノエリア!」
炎をまとった足で怪物へ蹴り込む。
バン!!
怪物の体がぐらりと揺れた。
その隙にダニーが飛び込む。
「こっちだ!」
拳を叩き込む。
怪物の注意がノエリアから離れる。
フィアがすぐに両手を広げた。
「守るよ!」
水色の結界がノエリアの周囲に広がる。
透明な光の膜。
石の破片が弾かれる。
ノエリアは息を整えた。
(助かった……)
だが。
フィールドの端で、カリンがくすくす笑っていた。
「仲良しだね」
カリンは手を軽く振る。
黒い霧が怪物へ流れ込む。
すると怪物の体が膨れ上がった。
「グォォォ!!」
さっきより大きくなる。
観覧席から悲鳴が上がる。
ダニーが驚く。
「でかくなった!」
ジェイドが低く言う。
「闇の供給だ」
その視線はカリンに向いていた。
ハイジが舌打ちする。
「つまり」
炎が揺れる。
「アイツ止めないと終わらねぇ」
ノエリアもカリンを見る。
カリンは楽しそうに笑っている。
目が合った。
カリンが言う。
「ねえ」
首をかしげる。
「まだ頑張るの?」
ノエリアは剣を握る。
カリンは続ける。
「そんな重たい剣」
くすっと笑う。
「君には似合わないよ」
ノエリアの胸が少し痛む。
(……似合わない)
入学の日。
「ゼロの子」
その声が頭をよぎる。
でも――
そのとき。
ハイジの声が飛んだ。
「気にすんな!」
炎が弾ける。
「お前の剣だろ!」
ダニーも叫ぶ。
「めっちゃカッコいいぞ!」
フィアが静かに言う。
「ノエリアちゃん」
優しい声。
「私は好き」
ノエリアの胸が温かくなる。
(みんな……)
そのとき。
胸の奥で、また声がした。
『ノエリア』
とても小さな声。
でも、確かにそこにいた。
ノエリアの目が少し潤む。
(ベル……)
剣を強く握る。
「似合うかどうかなんて」
ノエリアは言った。
カリンが目を細める。
「ん?」
ノエリアは剣を構える。
ピンクの光が剣に集まる。
「関係ない」
風が吹いた。
光がふわりと広がる。
ノエリアの髪が揺れる。
「これは」
前へ踏み出す。
「私の剣だから!」
ノエリアが走る。
怪物へ一直線。
カリンが笑う。
「へぇ」
怪物が腕を振り上げる。
だが。
フィアが叫ぶ。
「足場!」
水色の光が空中に浮かぶ。
ノエリアがその光を蹴る。
跳ぶ。
ハイジが叫ぶ。
「今だ!」
炎の蹴り。
怪物の体勢が崩れる。
ダニーが拳を叩き込む。
「倒れろ!」
怪物がよろめく。
その隙。
ノエリアが空中で剣を振り上げた。
ピンクの光が剣に集中する。
空気がきらきら輝く。
観覧席が静まり返る。
カリンの目が少しだけ驚く。
「……あ」
ノエリアが叫ぶ。
「いけぇぇ!!」
剣が振り下ろされる。
ピンクの光が怪物を貫いた。
ドォォン!!
巨大な衝撃。
怪物の体が裂ける。
黒い核が露出する。
ノエリアは最後の力で剣を突き刺した。
パリン!!
核が砕ける。
次の瞬間。
怪物の体が崩れた。
黒い霧が空へ消えていく。
静寂。
フィールドに風が吹いた。
ダニーが叫ぶ。
「倒した!」
ハイジが笑う。
「やるじゃん!」
フィアが嬉しそうに言う。
「ノエリアちゃん!」
ノエリアはその場に膝をついた。
息が荒い。
でも、胸の奥が温かかった。
フィールドの端。
カリンが静かに立っていた。
さっきまでの笑顔ではない。
少しだけ真剣な顔。
カリンは小さく言った。
「……やっぱり」
そして、また笑う。
「面白い」
黒い霧が足元に広がる。
その体がゆっくり溶ける。
「また遊ぼうね」
最後にノエリアを見て言う。
「ゼロの子」
そして、消えた。




