カリン
グランドフォール学園、訓練フィールド。
怪物の咆哮が空気を震わせた。
「グォォォ!!」
巨大な腕が振り下ろされる。
石畳が砕け、破片が飛び散る。
ハイジが地面を蹴った。
「行くぞ!」
炎が足元で爆ぜる。
一瞬で怪物の懐へ飛び込み、蹴りを叩き込む。
ドン!!
炎のヒールキック。
怪物の頭が大きく揺れる。
ダニーがその横から突っ込んだ。
「合わせろ!」
拳を振り抜く。
衝撃が怪物の体を押し戻す。
フィアは少し後ろで手を広げていた。
水色の光がふわりと広がる。
「守るよ」
透明な結界がCクラスの生徒たちの周囲に展開される。
ジェイドが冷静に指示を出す。
「怪物の注意を引け」
視線はカリンに向いていた。
「本体はあいつだ」
だが。
そのカリンは、戦闘を楽しそうに見ているだけだった。
フィールドの端。
石の壁に腰掛けて、足をぶらぶらさせている。
「すごーい」
まるで演劇でも見ているみたいだった。
カリンはくすっと笑う。
「楽しそうだね」
その視線が、ゆっくり動く。
そして――
ノエリアで止まる。
「でも」
カリンは首をかしげた。
「君は違うよね?」
ノエリアの胸がドクンと鳴る。
剣を握る手に力が入った。
カリンが言う。
「本当はさ」
無邪気な声。
「怖いでしょ?」
その言葉は、妙に胸に刺さった。
ノエリアは言葉を失う。
カリンは続ける。
「だって君」
笑う。
「ゼロだったんでしょ?」
観覧席がざわめく。
ノエリアの胸がぎゅっと締め付けられる。
(……ゼロ)
入学したときの視線。
ひそひそ話。
「なんでいるの?」
「適正値ゼロなのに」
その記憶が一瞬よぎる。
カリンは立ち上がった。
黒い霧が足元に広がる。
「頑張ってるの、分かるよ」
ゆっくり近づく。
「でもさ」
少し笑う。
「疲れない?」
ノエリアの心が揺れる。
カリンの声は、妙に優しかった。
「無理して強がって」
黒い霧が広がる。
「みんなに追いつこうとして」
ノエリアの足が少し止まる。
(……私)
そのときだった。
「ノエリア!」
ハイジの声。
振り向くと、ハイジが怪物を蹴り飛ばしていた。
「何ぼーっとしてんだ!」
ダニーも叫ぶ。
「来てるぞ!」
怪物が腕を振り上げていた。
ノエリアに向かって。
フィアが叫ぶ。
「ノエリアちゃん!」
水色の光が広がる。
でも距離が遠い。
間に合わない。
その瞬間。
ノエリアの胸の奥で、光が揺れた。
とても小さな声。
『ノエリア』
懐かしい声。
ノエリアの目が大きくなる。
(ベル……)
カリンが面白そうに言う。
「聞こえた?」
ノエリアは剣を強く握った。
胸の奥の光が、少しだけ強くなる。
ノエリアは前へ踏み出した。
「違う」
カリンが目を細める。
「ん?」
ノエリアは言った。
「怖いよ」
正直な声だった。
「でも」
剣を構える。
ピンクの光が剣に集まる。
「一人じゃない」
ハイジが笑う。
「やっと戻ったな」
ダニーが拳を握る。
「行くぞ!」
フィアの光が広がる。
「ノエリアちゃん!」
ジェイドが低く言う。
「今だ」
ノエリアは怪物へ走った。
胸の奥の光が、さっきより温かい。
カリンはその様子を見て、くすっと笑った。
「やっぱり」
楽しそうな声。
「面白い」
そして小さく呟く。
「でも」
その目が少しだけ冷たくなる。
「いつまで持つかな」




