ゼロの昇格
グランドフォール学園の校庭。
戦闘が終わったあと、石畳の広場にはゆっくりと日常が戻り始めていた。
教師たちが破損した地面を確認し、
回復系のリミィジュが怪我人の治療をしている。
さっきまでの緊張が嘘みたいに、空は穏やかだった。
校庭の端。
噴水の近くの石段に、ノエリアたちは座っていた。
ノエリアはまだ少しぼんやりしている。
手の中の剣を見つめた。
(私、本当に戦ったんだ……)
その隣で、ハイジが大きく伸びをする。
「はぁー」
ハイジは空を見上げながら言った。
「久しぶりにいい運動だったな」
フィアがくすっと笑う。
「戦闘のあとにそれ言えるのすごいね」
ダニーが噴水の縁に座りながら言う。
「でもほんと、すごかったよノエリア!」
ダニーは両手で剣を振る真似をする。
「ドーン!ってさ!」
ハイジが笑う。
「それ擬音適当すぎだろ」
ジェイドは少し離れたところで立っていた。
腕を組みながら、ノエリアを見ている。
静かな声で言った。
「最初の戦闘とは思えない動きだった」
ノエリアは慌てる。
「そ、そんな……!」
ハイジが横から言う。
「いや普通にすごかったぞ」
ノエリアは顔を赤くした。
(みんな、優しい……)
そのときだった。
校庭の中央に、教師たちが集まり始めた。
グレタ先生が声を張る。
「生徒の皆さん、集合してください!」
噴水の水音が響く中、
生徒たちが校庭中央に集まっていく。
ノエリアたちも立ち上がった。
石畳の広場に、生徒が半円を作る。
その前に立っているのは
学園長――ゴードン。
白いローブを羽織った老人だ。
長いひげを撫でながら、ゆっくり口を開く。
「今日の戦闘、よくやりました」
穏やかな声。
しかしその声は、校庭全体にしっかり届く。
「怪物は完全に消滅しました」
生徒たちが少しざわめく。
ゴードンは続けた。
「そして――」
ゆっくり視線を動かす。
その視線が、ノエリアで止まった。
ノエリアの心臓が跳ねる。
(え……)
ゴードンが言った。
「今回の戦闘で特に優れた働きを見せた者がいます」
ハイジが小さく呟く。
「来たな」
フィアがノエリアを見る。
ノエリアは緊張していた。
ゴードンが名前を呼ぶ。
「ノエリア」
校庭が静まり返る。
ノエリアはびくっとした。
「は、はい!」
慌てて一歩前に出る。
ゴードンは優しく微笑んだ。
「そしてフィア」
フィアも一歩前に出る。
「はい」
ゴードンはゆっくり頷く。
「あなたたちはDクラスですが」
少し間を置く。
「今回の戦闘結果を踏まえ」
校庭の空気が張り詰める。
そして――
「Cクラスへ昇格とします」
一瞬、静寂。
次の瞬間。
「おおー!」
ダニーが真っ先に声を上げた。
ハイジがにやっと笑う。
「だろうな」
フィアがノエリアを見る。
目を丸くしている。
「ノエリアちゃん……」
ノエリアはまだ理解が追いついていない。
「え……?」
自分の胸を見る。
ブロンドバッジ。
そこに、小さな光が灯った。
カチン。
小さな音がした。
バッジに、ダイヤが一つ輝く。
周囲がざわめく。
「ゼロじゃなくなった」
「本当に?」
「早くない?」
ダニーが走ってくる。
「おめでとう!」
ハイジも肩を叩く。
「よう、Cクラス」
ジェイドは静かに言った。
「順当だ」
ノエリアはまだ信じられない。
胸を押さえる。
(私が……)
Cクラス。
リミィジュ候補生。
フィアが笑った。
「やったね」
ノエリアの目が少し潤む。
「うん……!」
そのとき。
ノエリアの胸の奥で、微かに光が揺れた。
まるで誰かが喜んでいるみたいに。
とても懐かしい気配だった。




