第6話 「メイドから聞き出す作戦 その2」
ガーレットから聞き出した情報を整理してみると、
・この国の名前はノワール諸国。大陸にある幾つかの町村を現国王が纏めて出来た国らしい。そして周辺にある国々とは連合……? 同盟を組んでおり、それを連立国という名で管理している。代表はその年々で変わる。
・国王の名前はバルティ・ノワール。奥さんの女王はオレが小さい頃に亡くなっている。
・オレの転生した姫様の名前はフランソワ・ノワール。
性格は寡黙でとてつもなく物静か。受動的でまるで人形のように自らの意志を示す事がなかったらしい。話す言葉も「はい」「いえ」「好きじゃない」の三つしか聞いた事がなかったそうだ。窓の外を眺めて過ごす事が多く、走る事すらなかったという。
ある日、突然に「ひどく眠い」と眠りについて、それから今まで一か月ほど眠り続けていたらしい。
・文明レベルは中世。
電気もガスも水道も無く、夜の明かりはたいまつや蝋燭。当然ながら電気で動く機械もないって訳だ。
そして、残念ながら魔法なんて存在しない。それが一番悲しい……。どうせなら究極の魔法とか覚えて無双したかったのに……! くそぅ。
「ありがとう、ガーレット。まだ記憶は戻らないけど、なんとなく自分が分かった気がする」
「姫様、本当にこれだけでよろしいのですか?」
「うん、いや、……はい。また知りたくなったら教えてくれる?」
「はい……! 勿論でございます!!」
ガーレットは明るく答える。
オレとしてもとりあえずこれだけ知っていれば、ボロを出さずに済みそうだ。
姫様の性格を聞き出せたのはラッキーだった。ま、そりゃオレの行動を振り返ってみたら、家臣や王様がビックリして面食らうのも納得だぜ。気を付けないとな。
後は、さっき国王に頼んだ国の収支の中身さえ分かれば、これからの行動が決められる。ようやくスタート地点に立った気分だ。
「姫様……、お身体の調子は本当によろしいですか?あの、実は国王様に申し付けられて…ご夕食を召し上がれるかお伺いに来たのですが…」
「夕食……?」
そうか、もうそんな時間なんだ。時計も何もないから分からなかった。
「夕食……夕食、どうしようかな」
「無理にとは申しません。お身体の調子がよろしくなければ、国王様にお伝えして参ります」
「うーん、食べる、食べるわ。ガーレット」
「本当ですか! 分かりました! 早速、準備致しましょう!」
「準備? これから夕食を作るの?」
「いえ,違います。お着替えの支度です」
「あ、……え〜、これじゃダメ…?」
ガーレットが困った顔をして悩む。
「その、そのお召し物は寝間着ですので……公の場に行くには相応しくないと思います……。姫様がどうしても言うのならば国王様にご相談に行かせて頂きますけども……」
寝間着なのかコレ。確かに快適な着心地だから、楽でいいと思っていたが、この格好でウロウロするのは流石にマズイか。
「あ、ううん! いいの、わか、わかったわ。着替えればいいのね! えーっと、服! 着替えの服はどこにあるの!?」
「姫様のお着替えは私がして差し上げますわ」
「え。いや、いい……、いい! 着替えくらい自分でするから!」
「姫様の御手を煩わせる訳には参りません。普段からこの様に致しておりますのでご安心ください。さぁ、お手を失礼します」
ガーレットはそう言ってオレの手を持ち上げて寝間着を脱がしてくる。
素っ裸になったオレは……、いや下に何も着ていなかったのか。そりゃ快適な訳だ。
「なんか恥ずかしい……。下だけ隠していて……、何だこりゃ!?」
下腹部にピンク色の見た事もない、紋章みたいなミミズ腫れが浮かんでる。
「何これ……、え、これ……まさか、淫紋??」
は? また条件追加? 属性多過ぎだろ、この姫様……。
それを見たガーレットが険しい顔をして首を振る。
「それは……、ドルイド様の手に寄る『婚約の儀』の痕です……。淫紋……と言うのが何を意味するのか存じてませんが、その証が姫様とこの国を縛り付けているのです」
「『婚約の儀』ぃ?? 何それ」
「数年前に姫様とドルイド様の交わした『契約』ですわ。詳しい事は国王様と姫様しか分かりませんが、私達にはそれが良くないものを意味するという事は知らされております」
「ぐ、具体的には……?」
ガーレットは首を振る。
「私の口からは、とても…」
そう言って涙を流す。
「いやいやいやいや! 大事な事だから!! 隠さずにきちんと説明して!!」
「うっうっ……、その……姫様の胎内に……、その」
「そ、その……??」
「む、虫……を……」
「む、虫……? 虫って、その草むらとかにいる、あの……?」
「はい、ですが契約に使う特殊な『虫』なのだそうで……」
「え、何……オ……いや、私は身体の中に虫を埋め込まれてるの?? ウッソでしょ!?」
「いえ、真実です……。うっうっ、それがあるから私達国民は姫様を逃す事も出来ずに国王様も苦難の道を歩まれる事に……、うぅ〜〜…」
「ち、ちなみに契約を破ったら、どうなるの」
「うっうっ、姫様が国内から逃げたり、借金の返済が滞ったりしたら、姫様のお腹の中から虫がお腹を食い破って飛び出して来て、姫様のお身体を糧に成長を続け、やがて姫様は惨たらしい虫達の苗床になってしまうとの事ですぅ……!そんなの絶対に見たくありませんー!!」
オレだって嫌だよ!! 何なんだよソレ!!
「えええーーーーーーー!!? 何それ!? あのジジイ何してくれてんの!?」
ん?! ちょっと待て!! さっき、
「え! 待って!! ガーレット!! あなたさっき私に逃げようと言わなかった!?」
「はい、言いました〜……。でも、それは理由がありまして……、姫様がドルイド様に手を上げたと言われたのが理由でございます……」
「え、ど……どういう事?」
「それは……ドルイド様には失礼ですが大変に陰湿な御方です。そのような『契約』をしているのならドルイド様に危害を加えた時点で姫様やこの国に災害がもたらされるはず。それがないという事はドルイド様が姫様や国王様を縛り付ける為についた方便という可能性の方が高いと思ったのです……」
「なるほど……」
ガーレットの言う通り、そしてオレの見た限り……あのジジイがやりそうな手口っちゃーそうっぽい。
しかし、万が一って可能性もある。国王にそれとなく聞いて真実を確かめてからにしないと、下手に動いたら、大変な目に会うかも知れないな。
「分かったわ。ガーレット、でもまだ時期尚早だと思うの。私が国王、お父様に確かめてみるから軽はずみな行動は慎んでちょうだい」
「わ、分かりました……」
「そうね。やはり夕食後にお父様といろいろ話す必要がありそう。さ、夕食に行きましょう」
「あ、姫様……、まだお着替えが終わっておりません」
「んあ? あ、そうだった」
そうだ。オレはまだすっぽんぽんの霰もない丸裸のまんまだった。ガーレットも話に夢中で手が止まっていたし……。
「そう、そうね。これじゃ何処にも行けないわ。服を着させて?」
「はい、では失礼します……」
ガーレットはオレの部屋の一角へ向かい、ドレスの様な白色の服を持って来る。
「それでは失礼します。あの……姫様、足をお上げになって下さい」
「え?」
足を上げるの? 何で……、ああスカートに足を入れるのか。でも、そうするとガーレットの顔の前にオレの大事な所が丸見えに……。いや、ちょっと待て。一カ月寝たまんまだったよな、オレ。
「あ、でも……やっぱりお風呂に。身体洗いたい……の」
「何故でしょう? 湯浴みをしているとお夕飯の時間に間に合いませんよ」
「でも ……でも……」
スカートを持って待機しているガーレットに躊躇してオレは足を上げられずにいる。自分が臭うかなんて、普通に聞けない。
……もじもじして言い出しづらい。自分の弱みを曝け出すような気がして顔が真っ赤に赤面してしまう。
「だって、その」
「臭く……ない?」
「大丈夫ですよ。ほら、その証拠に」
そう言ってガーレットは近付くと裸のままのオレを優しく抱き締めて、スーーーっと息を深く吸い込む。
「ええ、とても高貴な……香ばしい香りが致しますわ」
「こ!? こぁ!?? …………ひゃい、はな……れて」
ここここここ香ばしいって!? それってやっぱり臭いって事じゃん!!
○◇○◇○
観念してオレはガーレットにドレスを着せられる。
「あの……パ、パンツは、だってスカートの下、何も着けてない……けど」
「パンツとは何でございましょう?以前からこうであったではありませんか。それともまだ記憶が混乱していらっしゃるのですか」
「だって、下……スースーするし……」
それに椅子に座るのだったら直に当たるのだけど……。




