第3話 「国王と姫(オレ)」
国王と呼ばれた大男が落ち着くのを待って、ようやくオレはその毛むくじゃらの腕から開放された。
「姫……、よう生きていてくれた。ワシはそれだけで幸せじゃ……」
「……どうも」
ボソっと返事をする。
なんか自分の事じゃないのにあれだけ泣かれると対応に困る。こそばゆいと言うか、むず痒いというか。
「そうじゃ。姫の婚約者も心配しておった。せっかくだから会いに行こう」
「……婚約者?」
こ、婚約者だって? それはそれで話が変わって来る。いきなり逆ハーレムみたいな展開持って来られても、それにオレは男だから別に男に興味ある訳じゃないし、どっちかと言うとモニュ様一筋を貫いてきたのだし。
「えっ、あの……き、急に」
「さぁ、行こう。来賓室で待っておる」
「なっ、ちょっ……」
手をグイグイと引っ張られて連れて行かれる。振り解こうにもあまりにも力の差があり過ぎてこちらの抵抗がまったく効きゃしない。
‥‥‥本音を言うと、ちょっとだけ。ちょっとだけオレも興味があるけれども。
アニメとかだと、婚約者ってイケメンじゃん? この世界だとどんなキラキラした奴が現れてオレに対してラブコールを送ってくるのか気にはなるじゃないか。
「ドルイド卿! 姫が目覚めましたぞ!」
「姫が……それはよかった」
連れて来られた先にいたのは……、しわくちゃの老いぼれた爺さんだ。
ん? あれ? おかしいなぁ。イケメンは?
「あ、あの……婚約者って」
「おや、姫。卿の顔をお忘れか?それとも目覚めたばかりでまだ混乱しておるのか」
「えっ」
嘘だろ。こんな爺さんと婚約って。
「うむ、ワシは席を外す。後は二人でゆっくり過ごしてくれ」
「えっ、待っ……、」
国王は満足気な笑顔を見せてその場を離れてしまった。部屋に取り残されたオレは固まる。
「うむ、そうやって大人しくしておればよい。そうすれば姫もこの国も安泰じゃて」
「うっ……」
爺がネットリとした目付きでこっちを舐め回すように眺めてくる。
「どうなされました?それにしても寝巻き姿のままとは。卿を誘っておると解釈して宜しいかな」
「ち、違……」
思わず鳥肌が立つ。しわくちゃの手が腹に触れてゆっくりと迫り上がってくる。その仕草がたまらなく気持ち悪くて悪寒が走る。
「くっひっひっ。まぁこう言った行為は正式に婚姻が為された後に取っておこうかのぅ。楽しみじゃ、卿好みの恥態に塗れたお主の乱れた姿を見るのは。くっひっひっひっ」
「やめ、やめて……ください」
「なぁにを嫌がっておる。お主も受け入れておったではないか。それとも何か。今になって嫌とでも申すのか。そうすればどうなる? お主とお主の国は路頭に迷う事になるぞ」
気味の悪い笑みを浮かべながらこのジジイは捲し立てる。一方的に話される話を聞いていると、どうやらこのジジイに多大な借金があるのか?
「ふざ……」
気色の悪い撫で方をされながらオレはボソリと呟く。
「……ふざけ、ないで」
「ん? 何か言ったか?」
「……ふざけるんじゃないって言ったんだーー!!!」
オレはそう叫ぶと同時にジジイの顔に思いっきりパンチを叩き込む。
非力な拳は頼りなかったが、それでもジジイを地面にこけさせるくらいの威力はあったらしい。
「そんな…そんな借金! この私が返してみせます!! 気色の悪い色ボケ爺め!! これ以上、この国と私を好き勝手になんかさせない!」
「なっ……」
ハトが豆鉄砲を喰らった顔とは正にこの事か。
地面に尻もちを付いたジジイは驚きのあまりオレを見上げたまま硬直している。
「姫!! どうした!! 何の騒ぎか?! なっ! ドルイド卿!?」
驚いた国王が部屋に入って来ると、その光景が信じられないといった様子でオレとジジイの姿を交互に見ている。
「国王!! 婚約は破棄だ!! この国の借金は全部きっちり何とかする!! このジジイを摘み出してくれ!!」
「なっ、へっ、何を……ひ、ひめ…!?」
やって来た兵に抱き起こされながらジジイは、
「姫よ……自分の発言を後悔するでないぞ! 借金が返せなかった暁には、この怨みを込めて徹底的にいたぶってやる……」
「うるせぇ!! 黙って消えろっ!! 視界に入るだけで不愉快だ!!」
「覚えておれよ……」
ジジイは兵に連れられて口惜しそうに消えて行った。
残ったオレと国王は、部屋の中で佇む。
「姫……、大丈夫であるか。あんな啖呵を切ってしまって」
「大丈夫かどうかは知らないけど、言ってしまったものはしょうがない。何とかするしか……」
そう。勢いとは言え、かなり大それた事をしてしまった気がする。
しかし、どうしても。どうしても嫌だったのだ。あのジジイが結婚相手なんて。
‥‥‥近付いただけで分かった。
この世に何をどうしても合わない人間がいるって事を。他の家来や国王は平気だったのに、あのジジイだけは近くに寄られるだけでも嫌だったのだ。
「ドルイド卿は執念深い……。ワシは心配じゃ」
「それなら協力して。とりあえず今現在の状況を把握しておかないと」
オレの気迫に押されたのか国王は押し黙っている。
さて、成り行きとは言え、どうすればいいか。借金と言ってもどれくらいの額なんだ?
「あ、ちなみに……借金の金額ってどれくらいの値段……」
その問い掛けに国王は顔を曇らせながら、
「この国の収入の約百年分じゃ……」
「ぴゃっ!?!? ひゃ……百年!?」
……これは、暴走し過ぎたかもしれない。いきなりハードモードを通り越して、最高難度なのでは??!




