第16話 「いざ、銀職人の元へ」
その日は澄んだ青空が広がり、他に言い様がない程の快晴だった。
「うわー! いい天気!!」
「ええ、まるで我らの門出を祝福しているような素晴らしい天候です」
「門出って……、何かいかがわしい」
「なっ!?」
オレ達は馬に乗り、ヨハネの案内で銀細工職人の住む村まで向かっている途中だった。久しぶりに出た城の外は清々しい。自然の緑が広がって、鳥達が囀る声が聞こえてくる。領内の自然の中にある豊かさはとても幸せな気持ちにさせてくれる。
「相変わらずいい景色だよな〜」
ポツリとそんな事を呟く。のどかな風景の中、ゆったりと馬に揺られていると細い煙の立ち昇る小さな村が見えて来た。
「あれがムーベンルクーズです」
ヨハネの指す方向の先にあるのが今回の目的地の銀職人がいる村だ。道のあちこちには高く積み上げられた石や砂があって、それらがキラキラと光っている。
「これは……?」
興味に駆られ、ヨハネに聞いてみると、様々な鉱石や金属の素となるらしい。こんな砂や石から金属が生まれるなんて不思議な感じだ。
「へぇ……。これが?なんだか不思議な感じ」
「そうですね。私達にはただの土山にしか見えませんが、村の者達に取っては貴重な資源なのです」
「なるほどね〜、使える人に取ってはこれがお宝の山に見えるんだ」
馬上から眺めながらその山を通り過ぎて行く。村の中は木で建てられた小屋や水の入った桶、かまどやハンマーなど、正に鍛冶屋の村とも言うべき景色でその中を、屈強な身体付きの髭面のおっさん達が金属製の槌や鍛え上げたばかりの大剣などを担いで歩いていた。
「うぁーー、すごい。まるでファンタジーの世界みたいじゃん……」
「ファ……? それは一体何でしょう?」
「え!? あー……、独り言だから気にしないで!」
「はぁ……」
イマイチ納得のいってなさそうな顔でヨハネが空返事をする。
危ない危ない。夢中になると自分でも気付かないうちに口を滑らせてしまう。それにオレが姫になってる時点で十分ファンタジーだっつうの。
「姫様、着きました。ここがかの者の住まう家です」
ヨハネの案内の元、村のさらに外れの地区にある一軒家の前まで辿り着く。家の脇には沢山の薪とキラキラと光る銀色の砂の粒の山がいくつも拵えてあった。
オレとヨハネは馬を降り、護衛の二人に馬を任せる。
凄腕の銀職人か……。一体、どんな人物なんだろう。
「……姫様。忠告ですが、この館の主は少々、癖が強いのでもし合わないと感じたら遠慮なく教えて頂きたい」
「癖……?」
何だろう?? こだわりが強いとか、厳しそうなのか? それとも無口だったりとか?
「それでは行きましょうか」
深呼吸してヨハネが玄関の戸を開ける。オレも少しドキドキしながらゆっくりと家の中に入った。
玄関から進むとすぐに広い作業場に出た。机の上には沢山の銀色の装飾品が置かれている。加工途中なのか? 丸い塊のままの物もある。
「誰もいない……?」
人っ気はなく静かな雰囲気だ。主人は何処かに出掛けているのだろうか。
「いえ、そんな事はあり得ない筈……。ここの主は家から滅多に出ないですから」
ヨハネと二人、作業場をキョロキョロと眺めていると、後ろから、
「んん〜〜〜ッ!! トレビエ〜〜〜ンヌッ!! お客さんとは珍しいもんだね〜〜。おや、君はヨハネ君じゃないか〜! どうだね? 僕の作った作品の調子は?」
けたたましい音のクラッカーと共に長髪の気優しい感じの人がオレ達の背後からニュッと現れた。クラッカーから飛び出た紙吹雪やテープを頭に乗せながらヨハネは眼鏡を正し、
「お久しぶりです……。おかげさまで不具合もなく何の不満もありませんよ」
「ンヌッ!! フォーーーーッ!! グッドぉ!! 素晴らしい!! それは嬉しい知らせだね!! ところで、こちらの鉄仮面のお嬢さんは……」
ヨハネからオレに目を移した銀職人の主人はオレの姿を見るなり、
「ん? んん!? んんんっ!!?? ほうほう!! ほう!! なんとっ! これは!?」
「えっえっえっ、なん……ですか急に」
ギョロギョロとオレの周りを周りながら興奮する様に鼻息を荒くする。
「ふむ!! なんと! 渋い趣き! ほほう! 鋼鉄製かと思いましたら、この淡い光沢色! 純銀とまでいかないが別の金属に銀を混ぜ込んでありますね! それによって強度と輝きの両立を成している! 素晴らしい! 匠の業ですね! いい仕事をしております! しかし! 少しばかり味気ない! 武骨な雰囲気も宜しいですが女性の方が身につけるのならば華やいだ品性を忍び込ませても宜しいかと存じます!! ん? いや、これは開けた穴を埋めてありますね〜。と言う事は装飾具が以前は付いていた可能性が? ふむふむ、ここにもここにもこちらにも。ふむ!! なるほど私が考える箇所に寸分違わず跡がある! ほほう!! なんとまぁ!! 偶然の出会い!! よもやこの様な機会で私が感嘆する程の技法のある銀具に出会うとは!! ヨハネくん! 素晴らしい出会いをありがとう!! とは言え、この様な手を凝らした装具、むむ……!? この淡い銀の輝き……、見覚えのある反射、思い出して来ましたよ?? これは以前、王妃に私がお送りした防具によく似ている……、ともすれば銀と金属の浮遊の割り当てから言って王家の方くらいにしか手が出ない価値……、よもや」
ヨハネがオレを指して言う。
「姫です」
それを聞いて銀職人の人は言い表しようのないポーズを取りながら、
「トレッッビエ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ンヌッスフォ!!! よもや姫様でしたとはぁ!! そして我が愛しの作品との懐古の出会い!! んっん〜〜〜!! 素晴らしい!!! 最高ですっ!! ああ!! アイディアが溢れ出るぅっ!!!」
と、のたうち回っていた。
オレはその様子を見てヨハネにポツリと呟く。
「……帰っていい?」
その言葉にヨハネは黙って眼鏡の位置をゆっくりと、かけ直すのだった。




