第13話 「教会にいた不審者」
「な、なんですか! 貴方は!」
「……ップハッ!! お前にそんな趣味があったとはなぁ。いいぜ続けな? 放っておいてやるから」
恥ずかしくなって赤面顔で咎めるが、その男は気にもせずに笑っている。
「む、人の趣味をとやかく言う権利など誰にも無いはずです。いいでしょうこれくらい!」
「なんだなんだ今日は。随分とお淑やかだな」
そう言って頭をポフッと撫でられる。子供扱いされたみたいで思わず顔が熱くなる。
「さ、触らないでくださいっ!! 気安く……!」
「おっと、あんまり調子に乗ってはいけないか。どうしたんだ? 久しぶりじゃないか」
そっか、顔見知りの可能性もあるのか。いや、この馴れ馴れしい感じは絶対に知り合いだ。あまり下手な言動は出来ないぞ。
「あ、あの……おー……お父様を探しに」
「ん? あー……そう言う事か。なるほどねぇ、確かに此処に居た。それから先が知りたいか?」
「あ、当たり前です……! お父様はどこに……」
「ふぅん、…… ……」
オレの顔を見て微笑んでいる。やりにくいなぁ…。もう。
「おし、教えて……、教えてくださらないんですか」
「教えてやってもいいぜ。でも、その前に……人に物を聞く時は流儀ってもんがあるだろう……」
男はそう言ってオレの
なっ、
なっ。な……
なぁっ!?
甘い囁き声で耳元で、
「教えて下さい。司教様……♡、って言うんだよ」
なんて言ってニコリと笑う。
「ふっ、ふづ、ふっざけんなーーーーーーっ!!!」
顔から火が出る様な恥ずかしさで、思わず男のみぞおちに思いっきり蹴りをお見舞いしてしまう!
「あ゛う゛ッ!!!」
と、叫んでゴロゴロと数メートル転がって、男が床でクタッと倒れる。
ヨロヨロと立ち上がると右手の親指を立てながら、
「いい…… 蹴りだったぜ……。さすが姫様だ」
青ざめた顔を引き攣らせて、ニカリと笑っている……。
何なんだこの男は……!
「なんじゃ。一体、何の騒ぎじゃ…」
「あ」
階下の騒ぎを聞き付けたのか、国王が階段から降りてきていた。タイミング悪……。
「姫……? どうしてここへ……」
「あ、あの……、そのぅ、お父様を探しに……」
「ワシを……?」
もじもじしながらそう言うと、国王は心配そうにオレの所までやって来る。
「ワシに何か用だったのか?」
「はい、森に行きたいので外出許可をほ、頂きたくて……」
「森に……?」
国王の顔が曇る。うーん、仕方ない。ここは洗いざらい話しておいた方がよさそうか?
「森に行くと言うならワシも同行するが、何の用なのじゃ?」
「それは……」
オレはヨハネとの会話を話した。そしておまけで……という訳でもないが、オレが記憶を失くしている事(設定だけど……)もそれとなく伝えた。
「なるほど、パピルスを……、そして記憶が……! なるほど、合点が行った。無理をさせてすまなかった姫……」
「大丈夫……です。きっと私もいつか思い出す日が来ると信じてますから。それで森への許可は……」
国王は考えている。それもそうか……、俄かには信じがたい話だからな。紙を作るのに森に用があるなんて。
「して姫の申す方法でパピルスは本当に出来るのか」
「多分……、でもヨハネに聞いた方がいいかも」
国王はまた腕組みをして、考えた後、こう言い放つ。
「分かった! これは国家機密事業として取り扱おう!ヨハネにも言い付けて極秘で執り行う。よいな! ゼハード! ……そういえば何故……お主はそこで倒れておるのじゃ……」
「おせーよ、気付くの……」
ゼハードと呼ばれた司教は床に転がりながら、そう愚痴るのだった。
○◇○◇○
数日後、国王やヨハネを引き連れて森に入ったオレは適当な木を見繕い、持って帰った。
国王の用意した建物内で作業を行った後、さらに数日後……。
「よし…うまく乾いてる。後はこれを綺麗に剥がせば……」
天日干しした紙の試作品を慎重に板から取り外す。
ペリッと離れ、紙はオレの両手でつまんだ先でヒラヒラと揺れている。
「おお……、おお…… ……! 素晴らしい! 正しくこれはパピルス!! この様な方法……いや、まさか樹木が元になっているとは誰も思い及ばすまい……!」
ヒラヒラとたなびくパピルスを見ながら、ヨハネは瞳を輝かせて興奮している。
「本当にパピルスじゃ……。姫……」
同じ様に感嘆した様子で見守っていた国王にオレは親指を立ててポージングする。
「もうちょっと木の剪定や改良が必要だと思うけど、試作品としては上出来じゃないかしら」
「姫、素晴らしい偉業で御座います! 後は我らにお任せを。ワタクシが選抜した精鋭達なら必ずやドルイド様のお造りになるパピルスに肉薄した品質の物を作り出してご覧に入れましょう。それで、宜しいでしょうか国王様」
「うむ、うむ……頼んだぞ……ヨハネ」
「はっ! お任せを!!」
ヨハネは国王に跪き、最敬礼をすると早速パピルスの改良に向けてチームの人達と話し合っている。
オレはその様子を眺めながら、少しだけ羨ましく思うのだった。
「姫、後はこの者達に任せて我らは帰ろうか」
「……。はい、お父様」




