第10話 「憂鬱な朝」
朝、
朝である。
爽やかなキラキラとした日差しと小鳥のかわいい囀りが聞こえ、明るく室内を照らしている。
「寝れて……ない。朝になってしまった」
シーツからモゾモゾと顔を出して、鈍い身体に朝日が染みる。
ガーレットが教えてくれたトイレは黄金色のツボで中には布が丸めて詰められており、
「私は気になりませんから、どうぞご自由に」
と、言われた所で出来る筈もなく。
どうにかガーレットを部屋から出して用を足したのだった。
……ただ、
「これを片付ける……のもガーレット……なんだよなぁ」
そう。中には自分の……排泄物がたっぷりと染み込んだ布が入っている。蓋をしてあるとは言え、中身が無くなる事はないので、再び彼女に下の世話をさせる事になるのだ。
そえ思うと昨日の廊下での出来事も連鎖的にぶり返して、そのまま悶々と考えていたら、朝になってしまった。
「眠い……。朝日を浴びると眠気が来る。予定を全部スルーして一日中、引き篭もりたい……って、そういえば姫様って普段は何をしてるものなんだ?」
ん〜? よく考えてみたら、オレは何をすればいいんだろう? まさか本当に一日中ゴロゴロしてていいって訳じゃなさそうだし。
コンコン。
「うわぁっ!!? は、はひぃ!! あ、あのあの! まだ準備出来てないから開けないでっ!」
「姫様、姫様。おはようございます」
ガーレットとは違うメイドの声だ。不意打ちは勘弁してよ。
「姫様、昨日お頼まれになった書類をお持ちしましたが、どうしましょう。また後で持って来ましょうか」
「書類?! あ、その、そこ! そこに置いておいて!」
「あら〜、いいのですか? 重要な物ですから、ヨハネ様には直接お渡しする様、仰せつかっていますけど」
「いいの、いいの!! 置いておいて!」
「はぁ……、分かりました」
ヨハネって誰だ?知らない名前だ。名前と顔を覚えるだけでも苦労しそうだ……。メモ帳とかないのかな。
メイドがいなくなったのを見計らって、オレは鉄仮面を被り、キョロキョロと辺りを見回してから書類の入った箱を回収する。何だ? 国の予算を記した書類なのに、やけに……軽い気がする。
オレはその箱を開けて驚愕する。
「何!? これーーーー!?」
慌てて部屋を飛び出して、さっきのメイドを探す。
「おや姫様。おはようございます」
「ね、ねぇ! あ、おはよう! さっきオレ……、私の部屋に来たメイド見なかった!?」
「それなら向こうに行きましたが」
「ありがとうっ!!」
オレは廊下をダッシュする。そしておそらくそうであろうメイドに声をかける。
「あ! あの! あのっ! あの! は、こ……!」
「あら? 姫様。どうかされましたか?」
「あの箱の中身ってあれだけなのっ!??」
「私では、なんとも……。ヨハネ様をお呼び致します?」
「うんっ、うんっ!そう…して!」
部屋に呼びますとメイドが言うと、トタトタと小走りで駆けて行く。オレは廊下を力無く歩き、部屋に帰る。
箱の中に入っている書類を取り出すと、中身は三枚。
「いくら何でもこりゃ冗談でしょう…」
国の書類と呼ぶには余りにお粗末な出来だった。
○◇○◇○
「ですから……何度も申し上げているように、それが我が国の正式な記録なのです」
暫くしてオレの部屋にやって来た気難しそうなインテリ片メガネ、『アカナ・ヨハネ』は冷静に繰り返す。
「だって、何これ?! 国の収支も年間と大雑把な分類……分類でもないし! 支出に至っては、これだけ!? もっとあるはずでしょう!? きちんと記録してないの!?」
声を荒げるオレにインテリ片メガネは諭す風に言う。
「いいですか姫様。記録、記録と申されますが、その記録を記すだけでも莫大な費用がかかるのをお忘れですか。パピルスをその様な事に使えるほど我が国は裕福ではありません」
「パピルスって、この紙? 紙なんてどれだけ使ったっていいじゃない!」
「はぁ…… ……。なんと贅沢な。その様な夢物語、語れるものなら私ですら幾らでも語りたい」
「パピルスパピルスって……、なんでそんなに拘るのっ!!」
「いいですか? 姫様。そのパピルス一枚で庶民の家一軒が簡単に購入する事が出来る程の金額なのです。それでなくとも公務で大量に必要となるのに……、これでは国の借金は嵩むばかりです」
「家一軒っ!!!??」
「そうです。お忘れですか? 先日、ドルイド様に反旗を翻したと聞いて、私は心沸き立ったと言うのに……。自ら首を差し出す様な行いをするとは残念です」
片メガネはそう言って、ながーーーーーーい、溜め息を吐く。
この世界では紙ってそんなに貴重なのっ!??!?




