第1話 「異世界転生生活」
「ありがとうございました〜」
「……ゥス」
コンビニの自動扉が開き、店を出る。
今夜の夕食はハンバーグ弁当。
目的にしていたキャンペーンのアニメコラボ企画の商品は結局、購入する事が出来なかった。
レジで店員に言い出す事も出来ず、後ろの列の圧に圧倒されて、たまらず近くにあったハンバーグ弁当を手に取ってあっためてもらった訳で……。
トボトボと夜道を歩きながら自宅に向かう。
オレの名前は八海 奈緒。
しがない一般市民のオタク男子。コレと言って特技もある訳でもなく、誇れるような容姿でもなく、なにより……なによりも、他人と会話する事が大の苦手なモブ中のモブとも言える存在である。
「はぁ……、モニュ様」
お迎えする事が出来なかった推しの事を考えながら電灯のあたらない暗い場所を選んで進む。明るい場所が嫌いではなく、目立つのが嫌なのだ。モブはモブらしく波風も立てず、派手な事をせず、ひっそりと好きなコンテンツを摂取して生きて行ければそれでいいのだ。
そう考えると、モニュ様をお迎え出来なかったのは痛恨の極みである。大体、何故レジで声に出して自分の要求を伝えないといけないのだ。棚に陳列してあれば手に取って、そしらぬ顔で会計を済ませるだけになるのに。完全無人化はいつになれば実現されるのか。まったくの知らない他人との会話を強要されるのが苦痛の人間もいるというのを分かって欲しい。
それはそれとして。……モニュ様。やはり、お迎えするべきか。
何度もコンビニに戻ろうと思い直して行ったり来たりを繰り返して、その度に店員が何て思うかとか、いや、でもここで手に入れておかないと入手が難しくなるとか、ウダウダウダウダウダウダ…悩んでいる。
完全に挙動不審の怪しい男になっている。
……通報される前に意を決して戻ろう。そう思った刹那、トラックのライトと、けたたましいクラクションの音が聞こえて、全身が熱くなるのを感じた。
あれ? やってしまった? もしかして…… もしかしなくてもこれで終わり? せっかくモニュ様をお迎えする覚悟が出来たのに?
追っていた第三期も見終える前にオレが退場してしまうの?
「待って待って待って待って。まだ何も終わってない! こんな所で死ぬのは絶対にイヤだーーー!!」
断末魔の叫びも虚しく、オレの意識はスゥッと遠のくのだった……。
○◇○◇○
「はっ……!!?」
意識が戻ったと同時に飛び起きる。
し、死んでない……?
そうか!神様はまだオレを見捨ててはいなかったんだ。モニュ様を愛でる権利と第三期の結末を見届ける猶予を与えてくれたのか。
それにしても、ここは病院……なのか? 個室にしたってえらく豪華な内装なのだけど。
壁に描かれた模様はシックながら手の細かい手間のかかった感じがするし、置かれているテーブルや調度品もやけに高級感を出している。
ベットのシーツはサラサラでまるでシルクのような肌触りだ。
身につけているパジャマも艶があって、これが俗に言うVIPルームというものなのか。
「これは…入院費がかかるぞ……。どうしてこんな場所に入れられたんだ。ん? なんだ? 声が変。エ、オレの……声だよな?」
自分の発した声がやけに高くなっている気がする。アニメのヒロインのような声が聞こえてくる。
心なしか目線も低くなっているような感じもするし、なんとなく胸元も膨らんでいるし、
「いや、有り得ない。まさか」
恐る恐る、自分の手を出して見てみると……。
「ちっさい! 何で?! え? 金髪??! コレは自分の髪の毛なのか?! 声が変! ちょっと待ってくれ!」
急いでベッドから飛び出した瞬間に確信する。
「オレ、女の子になってる!!? 足ちっさ!! なんで??!」
その騒ぎを聞きつけたのか病室のドアから、わらわらと人が入って来る。
「姫様!!」
「姫!!」
「お目覚めになられましたか!! よかった!! 国王様に報告を!」
まるでアニメの中世の出立ちのキャラがオレを取り囲んで泣きふためいている。
こ、国王……?
姫??
オレはアニメの世界に行ってしまったのか!?




