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巨乳の彼女を恥ずかしがらせるだけの話  作者: りむ


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5/21

#5 カーディガンを買うだけの話

校門を出たところで、しずくちゃんがブラウスの胸元をそっと押さえながら、僕を見上げた。


「……ね、今日さ。ちょっと寄り道してもいい?」

「寄り道?」

「うん……その、カーディガン……買いたいなって」


小さな声だったけれど、耳まで赤くなっているのがはっきりわかる。

しずくちゃんは、一日中胸元のボタンを気にしていた。


「いいよ。じゃあ、駅前のお店に行こうか」

「……ありがと」


平日の夕方の新百合ヶ丘駅前は、学生や会社員でにぎわっていた。

制服姿の僕たちが入ったのは、明るい照明に包まれた衣料品店。

壁一面にカーディガンやパーカーが並び、店内には柔らかな布の香りが漂っている。

棚ごとに「新作」「人気カラー」「おすすめコーデ」と札がかかっていて、足を踏み入れるだけで少し特別な気分になる。


「えっと……カーディガン、カーディガン……」

しずくちゃんは落ち着かない様子で店内を見回す。

普段あまり服を買わないからか、視線がきょろきょろしているのが分かった。


僕は当たり前のように、「大きいサイズのコーナー」と書かれた棚へ向かおうとする。

でもその瞬間、袖をぐいっと引っ張られる。


「……っ、どこ行くつもり!」

振り返ると、しずくちゃんの頬はもう赤い。


「わ、私、普通のところで探すから! 勝手にそっちに行かないでっ」

「え?」

「わ、私まだ普通サイズでいけるもん!」


小声だけど、必死の否定。

顔が赤いのは、恥ずかしいからか怒っているからか……いや、両方だろう。


「……ごめん。でも、そっちのほうが楽なんじゃ」

「楽とかじゃないのっ。……まだ、普通で大丈夫だから」


そう言って、彼女はブレザーの袖をぎゅっと握り、まっすぐMサイズのラックへ。

少しして試着室のカーテンが閉まる音がして――。


数分後。

カーテンがかすかに揺れ、しずくちゃんが姿を現した。


「……ね、ほら。普通に着れるでしょ?」


無難な薄いグレーのカーディガンを羽織り、胸の前で裾をちょんとつまんでいる。

確かに着れてはいる。けれど胸に生地が引っ張られて、腰回りがもっさりして見える。


鏡の前で身じろぎしながら、しずくちゃん自身も小さな声で呟いた。

「……太って見える、かも……」


鏡に映る自分に向かって、手でお腹や胸元をなぞるようにして確認している。

その動作すら、人に見られたら恥ずかしいと思っているのか、ちらりと僕の方を見てまた慌ててそっぽを向いた。

僕が言葉を探していると、タイミングよく店員さんが近づいてきた。


「よろしければ、こちらのコーナーもご覧になりますか?」


にこやかに手を差し伸べたその先は、「大きいサイズのコーナー」と書かれた棚。


「っ……! そ、そんな……!」

しずくちゃんは耳まで真っ赤にして、思わず後ずさる。


(……店員さんにまで太ってると思われた……!)


そんな心の声が聞こえてきそうな表情。


けれど店員さんは柔らかい声で続けた。

「こちらは、お胸が大きめの方でもシルエットが崩れにくいんです」

「胸が……お、大きめの……」


その単語をはっきり言われてしまい、しずくちゃんは両手で頬を覆った。


「よろしければ、試着されてみますか?」


店員さんに言われるがまま、しずくちゃんは渋々カーディガンを手に取った。


試着室に入る前、店員さんがさらに言葉を添える。

「こちら、胸まわりに余裕を持たせながらも、全体のラインはすっきり見えるんです」

「……っ」

しずくちゃんの耳がかすかに赤く染まる。


「立体裁断なので、グラマーサイズのバストでも自然に包み込むようにフィットしますし、型崩れもしにくいですよ」

「ぐ、グラマーサイズ……っ」

小声で繰り返してしまい、慌てて唇を噛んで黙り込む。


店員さんは、にこやかに商品の魅力を説明しているだけ。

でも、しずくちゃんにはまるで「胸が大きいから」と言われ続けているみたいに響いてしまう。

彼女は思わず胸元を両腕で覆うようにして、うつむいた。


(……やだ、なんで私、商品の説明じゃなくて……胸の説明をされてるみたいに感じちゃうの……っ)


しずくちゃんが試着室から出てきた瞬間、僕は言葉を失った。


さっきと同じグレーなのに、シルエットがまるで違う。

胸の下からすっとウエストへ沿っていくライン。生地が引っ張られていないから自然で、むしろ体型を綺麗に見せていた。


「ど、どうかな……?」

裾をつまんで、上目づかいで尋ねてくる。


僕は一瞬迷ったけれど、正直に言葉がこぼれた。

「……似合う」

「っっ~~~~!」


しずくちゃんの顔が一瞬で真っ赤に染まり、両手で頬を隠して背中を向ける。

「な、なにそれ……ばか……」


店員さんがにこやかに微笑んだ。

「やっぱりお似合いですね」

「~~っ……!」


その一言でさらに赤くなる。


最初は「胸が目立たない服」を探していたはずなのに。

しずくちゃんは気づけば、色違いを3着も抱えてレジへ向かっていた。


「……だって、せっかくだし……」

言い訳みたいに小声で呟くけど、耳の先まで赤いのは隠せない。



店舗を出て、夕暮れの街を歩く。

しずくちゃんは、早速買ったばかりのカーディガンを羽織っていた。

嬉しそうに袖をつまんで、歩幅もどこか軽い。


「……ね、なんか……ちょっと自信ついたかも」

「よかったね」

「うん……。でも、学校で着たら、みんなに『それ新しいやつ?』って聞かれそう」

「たぶん聞かれるね」

「で、『どこで買ったの?』って聞かれて、『駅前のあのお店』って答えると……」

「『あそこって高くない?』ってなるやつ?」

「そうそう! 絶対言われるやつ!」

「で、『お嬢様っぽい〜!』とかも言われると思う」

「それ、褒めてるの? そもそも、そんなに高くなかったよ」

「あっ!……あの、しずくちゃん」

「なに?」

「……値札、ついてる」

「えっ?」


首元を見下ろしたしずくちゃんは、慌ててカーディガンをひっつかんだ。

胸の下で、ひらりと揺れる値札。


「~~~~っ! もー、見ててよ! そういうのっ!」

顔を真っ赤にして、袖でばたばた隠すしずくちゃん。


僕は思わず吹き出してしまった。

そんな彼女の後ろ姿は、やっぱりちょっと誇らしげで、そして可愛かった。

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